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Ep.3-11「行方」


<刻碑暦665年 2月下旬>

ライカ

……そっか、きみも
知らないか、二人のこと……。

ミゲル

残念ながら。
藁にも縋る思いだったのだろうけど、 キミの馴染みの情報屋が手がかりを掴めていないのなら、 僕も知っているはずはないんじゃないかな?

マルタ

もう、すぐにまた嫌味を言う…
すみません、ライカさん。
このバカ兄はほんと口が減らなくて……。

ライカ

あぁ、大丈夫だよマルタちゃん!
このくらい慣れてるからさ!

ミゲル

そうだよマル、
例え望みが薄くとも、わざわざ嫌いな人間の下にまで訪ねてくるほどの人物が…… この程度の言葉に動じるわけがないじゃないか。

マルタ

*手に持っていた本でミゲルの頭を殴りつける*

ミゲル

ぃだッ

マルタ

…本当にごめんなさい。
この人、友達少ない…というかいないので、 はしゃいじゃってるんだと思います。 ライカさんの心象を考えたら… お暇するほうがいいかと……。

ライカ

う、うん。
そうさせてもらおうかな。

 

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ノイゼントルムのとある酒場にて

オデット

…………。

ファズ

アネゴおせーなぁ。
やっぱり行き先聞いといたほうが よかったんじゃ

オデット

…わざわざ寒い季節に 此処に足を運んだ理由なのでしょう。 私達が詮索することではないはずです。

ファズ

うーん、そっか。
それもそうだな!

オデット

…………。
…ところで、話が変わりますが……。

ファズ

えっ
なんだよ改まって……。

オデット

…私の手持ちですが……
家から持ち出した資金が、もう底を突きました。 つまり……貴方に支払える報酬がなくなったという事です。

ファズ

え……。

オデット

…察しが悪いですね。
今日で漸く、今まで貴方が散々振り回されてきた 用心棒という役目から、解放されるということですよ。

だからもう、私と行動を共にする理由が 貴方にはないわけです。 故郷もスタークとの事でしたし……

ファズ

ちょ、ちょっと待ってくれよ!
アネゴはそのこと知ってんのか?!
勝手に抜けるってわけにもいかねーだろ!

オデット

はい。私が伝えましたから。
ですから、リーダーが帰ってくる頃には 貴方は…ファズはもういないであろうことも ご存知のはずです。

ファズ

…………。

オデット

長い間、ありがとうございました。
貴方の傭兵家業が、これからも 実りの多いものであることを祈っています。

オデット

*最後の報酬の入った袋を静かに机に置いた*

ファズ

………ぉ

ファズ

お断りだ!!

オデット

……へ?

ファズ

考えても見ろよ、今オレが このクランを去ったら…女二人を 異郷の地に置いていくってことになるだろ?!
それは……男としてやっちゃいけないことだろ!!

オデット

……義理は通したいと?
それはつまり、アティルトまでなら 無報酬でもついてくる、ということですか…?

ファズ

いやいやそう―――だけど、そうじゃない!
報酬とかそういうんじゃねぇんだって! あーくそっ、まどろっこしい!

ファズ

オレはまだ、このクランに居たいんだよ!
今のオレのやるべき事は、クランの一員として、 盾となって仲間を守ること…そう信じてるからだ!!

ファズ

…お前がオレを追っ払いたくて 解雇だっていうんなら、素直に従うけどよ

オデット

…………。

オデット

…そうですか……。

オデット

貴方がそこまで言うのなら、私も止めません。 理由がありませんから。 …きっと、リーダーも喜んでくれると思います。

ファズ

マジか!
……はぁ~、良かった……。
*心底安堵したのか、満面の笑みを浮かべる*

オデット

…………。

ライカ

たっだいま~!
二人とも!

ファズ

あ、アネゴ?!

ライカ

いや~、丁度戻ってきたら 二人が言い争ってるから 聞き耳たてちゃったけど……。
ファズが残ってくれるんだね! すっごい助かる、嬉しいよ!

ファズ

へへっ、そーだろそーだろ!
ま、これからも泥舟に乗ったつもりで 任せとけって、アネゴ!

オデット

……それを言うなら大舟ですよ、まったく……。