- 0話 或る魔術師
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- 10話 澱める風
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0話 或る魔術師の記録(1/4)
―――…ろ、
…………。
起きろと言ってるだろう!
ッてぇ!
肩を強かに打ち付けられ、
痛みよりも先に衝撃によって目が覚める。
何事かと視線を上げると、
依頼主の男がこちらを見下ろし、
苛立たしげに杖先をカツンと鳴らした。
まったく、古代語の解読ができると言うから
こっちは雇っているというのに…。
目的地が近いのに寝る奴があるかい?
(その頼みの綱に、寝ずの番をさせたのは
どこのどいつだよ)
……はいはい、わぁってますよ。
口のきき方もなってない、 これだから冒険者は…。
…………。
肩をさすりながら、
傍らに置いていた自前の杖を
支えに立ち上がる。
こちらを振り向かずに馬車を降りる
依頼主の後に続いた。
濡れて足場が悪い森林地帯は、
靄が漂って肌寒い。
それで、その遺跡ってのは どんな場所なんです。
祠のような、小さな石造りの遺跡だ。
我が領内の村人が見つけたのだが…調査をしようにも、
あいにく学者が捕まらなくてね。
だから、どこの馬の骨ともしれない魔術師のお前に機会が巡ったのさ。
身に余る栄誉に感謝してほしいところだよ。
……なるほど。
そうまでして出向く理由はなんなんですかね。
その学者が戻るまで待てばいいでしょう。
…フン、お前には関係ない。
(まー大方、ドラ息子が 手柄欲しさに先走ってるってところか)
次期領主と名乗った依頼主に対して
邪推をしながらしばらく歩いていると、
当人が足を止めた。
どうやら目的地に着いたらしい。
此処だ。
…………。
目を凝らし、輪郭を探りながら近づくと、
石造りの遺跡が姿を現す。
山小屋程度の小さな空間を
内包していそうな台形のそれは、
入り口らしき箇所を見ても取手や隙間はない。
その代わりに、平たく均された
石の壁が塞いでいた。
見ての通り、入り口が塞がっていてね。
これを開けるのがお前の役目だ。
それは構いませんが…。
次期領主様は、中の調査はお望みじゃないと。
何だって?
この手の遺跡ってのは、宝物と一緒に侵入者を始末する罠が隠されてるのが常ですよ。 それが手つかずなら尚更。
まぁ、あくまで俺の役目は"この扉を開放すること"で…、
元より、調査を学者に任せる腹積もりなら構わないんですが。
ふ…、フン!
この僕に交渉する気か?
まずは扉を開けてから言ってもらおうか
(それはごもっともだな)
魔術師は入り口を塞ぐ石壁に近づき、
手をかざし、触れる。
ざらついた表面をなぞるうちに、
幾何学的な文様が浮かび上がった。
!!
石壁に変化が起きてからまもなく、
壁は薄らいで消えていく。
やがて、人が一人通れそうな
入り口が現れた。
…ほう、そこらのインチキ魔術師ではなさそうだ。
"魔術師"と名乗るだけある。
それはどうも。
で、どうするんです。
俺はもうここで帰ってもいいんですが
あぁ、払うさ、払おうとも。
賢明な領主なら、予期する危険に対して
金を惜しんだりしないからね。