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9話 それぞれの矜持(2/6)


<昼前 激熱の赤髭亭>

魔術師

(結局勢いに圧されて入ってしまった…。
まぁタダ飯にありつけるならいいか。)

ライノ

そういや名前聞いてなかったよな!
オレはライノ。にーちゃんは?

魔術師

魔術師。

ライノ

え?
あぁ、それはもうさっき見たからわかってるぜ?

魔術師

魔術師でいいって言ってるんだよ。
わざわざ名乗るほどの人間じゃないんでね。

ライノ

マジかよ、通りすがりだからってそこまでカッコつけなくてもよくねーか…?!

魔術師

世の中いろんなヤツがいるんだよ

ライノ

なるほどなー、確かにそうかもな!
ま、顔がわかればそれでいっか!

魔術師

(単純なヤツだな)

問答をしている間にも
ライノは厨房で手を動かして、
調理器具やら食材の準備を進めている。

やがて火で熱せられた金属を通して、
肉の焼ける匂いが、
音と共にカウンターに座る
魔術師にも伝わってきた。

魔術師

(料理、か…。学院にいた頃はやってた時もあったが、ここ最近はさっぱりだな。
やっぱり拠点がないと自炊なんて中々できるもんじゃな―――)

???

たっだいま~!
お肉のいいにおいする~!

魔術師

!!

???

…と、知らないヒトー!
"これ"おきゃくさん?

ライノ

"これ"じゃねーよ、恩人だよ恩人!

ライノ

「えるふ」がいない時に取り立てが来たんだよ!
そこを魔術師のにーちゃんが助けてくれたんだぜ!

えるふ

えーっ?! アイツらまたきたんだ!
ボクがいない時にヒキョーだな~!

魔術師

あんた、その耳……

えるふ

へへーん、長くてカッコいいでしょ!
マネしてもいーよー! ボク以外に見たことなくてさみしーから!

魔術師

…………。

魔術師

(この長耳は…。本で読んだ架空の種族、『エルフ』の特徴だ。
初めて見た…というか、実在するのか)

魔術師

(また変な奴らと遭遇してしまった気がする…)

***

<同刻 貪欲の小枝亭 一室>

ヤブ

…ってな具合に、

ヤブ

神経魔術師は『魔波』っていう魔力の流れを操って、有利な状況を作ってるわけっすねー

ミオラ

…………。

ヤブ

…………。

ヤブ

ミオラちゃーん

ミオラ

はっ!!

ミオラ

だいじょうぶです、きーてます!
細かい理屈はわかりませんが…私には目に見えない魔術の領域で、相手にちょっかいを出している…ということですよね!

ヤブ

おおむね その認識で間違ってないっすね~。 で、

ミオラ

それならよかった…、魔術師さんから聞いた通りで。

ヤブ

あ、魔術師さんから予習済みだったんすね

ミオラ

はい! それで念のために同業のヤブさんにも話を聞いておきたくて。
どちらかが、嘘を言ってるとも限りませんから…

ヤブ

(用心深くなっちゃったなぁ~)
…って、あれ。

ヤブ

俺はともかく、魔術師さんも俺と同等の信頼度に落ちちゃってません?
もしかして昨日何かありました?

ミオラ

え!!?
えーーっとですね……

ヤブ

(わかりやすぅ)

ヤブ

ダメっすよミオラちゃん、

ミオラ

!!

ヤブはおもむろに椅子から立ち上がり、
対面に座していたミオラの眼前まで
近づいて膝をつく。

相手の眼を見つめたまま
恭しく左手を取り、
自身の右手と絡めて結んだ。

ヤブ

今はタリスマンで魔衣バリアもあるみたいっすけど、 神経魔術なんてまどろこっしいことしなくても、触れて干渉しちゃえばどうとでもできちゃうんすから―――

ミオラ

*絡められた手に渾身の力で握り返す*

ヤブ

いだいいだいいだいいだい

ミオラ

おっしゃる通りのようですね。
わかりやすくて助かります!

ストリィ

…………。

ヤブ

あ。

いつの間にか音もなく
扉が開かれていたことに気が付く。
そこにはストリィが立っていた。

ストリィ

…ったく、朝食に呼びに来てみれば…油断も隙もない野郎ね

ミオラ

わ!? ストリィさん!
おはようございます!

ストリィ

おはよ。ま、毎回アタシが助太刀しててもしょーがないんだけど。
その様子なら大丈夫そうね

ストリィ

ヤブの言う通り、魔術師なんて物理でシバくのが手っ取り早いんだから、妙な動きする前にさっさと先手取っていくのよ

ミオラ

はい!

ヤブ

イェレさんを相手にしてる人だと言葉に重みがあるっすねー…。いてて