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9話 それぞれの矜持(6/6)


<昼下がり 農村ヘルドマ近郊>

えるふ

ほらー、しゅーらくが見えてきたよ!
えるふの近道論、信じてせいかいだったでしょ~

ヤブ

「街道逸れて行く!」って言って聞かないときはどうしようかと思ったっすけど…
やっぱり冒険者たるもの、近道ショトカ開拓もチャレンジしないとっすよね~
お手柄っすよ えるふ

えるふ

いつもこの勘で食材もあつめてるからねー、あさめし前だよ!

魔術師

信じらんねぇこいつら……。
マジで道中ずっと話して続けてやがる……。

ミオラ

まぁまぁ……、絞めて絞められてをしてた時と比べたら、平和で何よりですよ!

魔術師

…………。

村人

だから! 騎士さんまで向かったら誰がココを守るんだって

赤髪の騎士

ですが……。

えるふ

あ! 門番がいるー
あいさつ準備!

ヤブ

村の門番の割には装備が厚そうな

ミオラ

あれは…騎士?

えるふの勧めで起伏の緩やかな
林の中を進んでいた一行は、
無事目的の農村を視界に捉える。

そのこじんまりとした門前で、
村人と思しき青年と騎士が
表情を暗くして話をしている様が見えた。

魔術師

何かあったのか

村人

? どちら様で―――

赤髪の騎士

!! あなたたちは…

魔術師


(騎士に顔覚えられるようなこと しでかしたか?)

ヤブ

あ。
魔術師さんあれっすよ。最近出された、魔獣の御触れの時にいた騎士の一人では。

赤髪の騎士

魔獣警戒令の際にあなたたちもいらしていたのですね。
面識があったのはそちらではなく―――

シルルド

クルムラドへの帰還の折…。凶獣ベヒモスに追われていたところを助けていただきありがとうございました。
不肖シルルド、遅ればせながら仲間たちの分も重ねて感謝を。

魔術師

あぁ、あの時の騎士たちか。
ご丁寧にどうも

ミオラ

道理で既視感が…。
私はミオラです、困ったときはお互い様ですよ!

えるふ

…………。

村人

騎士さん、ちょっと……

シルルド

っと、失礼。話が逸れましたね。

シルルド

申し訳ありません、冒険者殿。
実はこちらの集落…農村ヘルドマでは問題が発生していまして。
作物に渡らせるための水が、日々減少しているのです。

魔術師

色々噂には聞いてたが、水不足だったか

村人

そうそう。 街に野菜が届かないからって買い付けの使いに来たのなら、残念だけど無駄足だ。
今はそれどころじゃないんだよ

ヤブ

言うほどこの辺って 雨が降ってなかったんでしたっけ?
そんな印象ないっすけど。
何か原因はわかってるんすか?

シルルド

それが……

村人

首 突っ込むんならちょうどいいや。
あんたら冒険者なんだろ?
騎士さんの代わりに洞窟の調査に行ってくれないか

ミオラ

? どういうことですか?

村人

俺たちの村に敷いてる水路の水源が、近くの北の洞窟にあるんだ。
そこを調査しに行った奴と騎士さんの一人が……一日経っても帰ってこなかった

ミオラ

そんな…!

ヤブ

へ~、わかりやすくていいじゃないっすか。
水源に何か起きてるのが確定してるなら、その原因がわかれば水不足が解決する可能性が高いわけでしょ

村人

…………。

シルルド

…………。

ミオラ

ヤブさん、当人たちの前でそんな言い方…!

ヤブ

すみませーん。
同情とか気遣いって、一銭にもならないもんで。

シルルド

申し訳ありません。僕たちの力が及ばないばかりに…。
ですがそれに、冒険者殿を巻き込むわけには

魔術師

構わねぇよ。
こっちも元からそれ関連の依頼で来てる。

魔術師

御覧の通り、振る舞いを考えない程度には、冒険者の命と足は軽いんでね。
その洞窟の件抜きでも近頃物騒だ、村の人間も騎士様に守ってもらう方が安心だろ。

村人

ほら、冒険者の人らも言ってるわけだしさ。 頼むよ

ミオラ

任せてください、シルルドさん!
私たちは魔獣には少しばかり一日の長があるので…魔獣であろうと蹴散らして戻ってきますよ!

シルルド

…………。

シルルド

…わかりました。
僕は賊と獣の脅威から、ヘルドマを護ることに注力します。
どうかお気をつけて…!