- 0話 或る魔術師
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- 10話 澱める風
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0話 或る魔術師の記録(2/4)
互いに合意も取れたので、
魔術師は遺跡の中へ足を踏み入れた。
…………。
森は鬱蒼として陽の光を拒み、
じめっとした寒さを覚えていたが、
それとも違った、
凛として澄んだ冷たさを感じる。
地続きであるはずだが、
外と中とで別の空間を行き来しているような心地を覚えた。
(初手で矢が飛ぶなり、床に穴が空くなりを想定してたが…それはなしか。)
内部の魔力を探っても、
それに類いする驚異は感じない。
魔術で光球を顕して確保すれば、
さほど広くない空間一帯を照らし出す。
中でも入り口正面の台座に在る、
人一人収まりそうな棺が目を惹いた。
それ以外は朽ちかけた調度品やらが散乱する程度で、
他にめぼしいものはなさそうだった。
どうだい、中は。
罠に苦戦してるようには見えないが。
ひとまず差し迫った危険はなさそうですね。
俺が見た限りでは。ですが。
あるのは手がつけられてなさそうな棺くらい―――
なんだって!?
あ?
中が安全だとわかるや否や、
依頼主は持っていた松明を放って
ずかずかと棺の前まで歩いて行く。
警戒心などで多少は逡巡しそうなものだが、
次期領主様は迷いなく蓋に手をかけ、
開こうとしていた。
ばっ…、いきなりそれ開ける奴があるか!
なっ!?
依頼主を掴み、棺から乱暴に引っ剥がす。
無警戒だった相手は尻もちをついて倒れ、
こちらを見上げて睨みつけた。
この…、何をする!?
お前の役目は調査までで…
宝物は、この土地の次期領主である僕のものだぞ!?
棺はまだ調べてねーし、一番危ねぇ箇所だろうが! 下手したら触った時点でやられてた
棺へと視線を戻せば、
蓋がわずかに開いてしまっている。
改めて脅威の有無を探るために、
中を改めようとした―――
は?
棺を覗き込んだだけのはずだった。
気づいたときには、
棺の蓋は独りでに開かれていた。
手を引かれるように身体は勝手に前のめって、
底の見えない、空の中身へと引き込まれている。
依頼人の声が遠ざかるのを
他人事のように感じながら、
闇は魔術師を呑み込んでいった。