- 0話 或る魔術師
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- 10話 澱める風
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2話 自称、ヤブ(5/6)
<夜間:休憩所 個室にて>
……。
日中の喧騒が嘘のように静かだ。
蝋に灯した明かりを頼りに、
記された文字に目を通し、
頁に指をかけ、めくる。
半刻前から そうして
黒の書に意識を向けていたが――――
(まぁ、俺だけの部屋じゃないんだよな)
開いていた黒の書をおもむろに閉じて、
規則正しい呼吸の聞こえる
背後に向かって口を開いた。
おい。
…………。
まだ起きてんだろ。
用があるなら、そっちから話しかけりゃいーんじゃねぇのか。
んー…。
*もぞもぞと身体を起こし、目元を擦りながら腰掛けている魔術師へ向いて*
すみませーん、気を遣わせて。他人と同室での寝るのが久々でー…緊張して寝れなくって。
んな小せぇタマしてたらチンピラに金をガメらねーよ。
つーか大方、森でミオラをハメたのもあんたなんだろ。
えー、ハメたって何の事っすか?
初対面で下ネタトークはちょっと
とぼけんなよ。
*椅子の背もたれを掴みながら振り返り、相手を見据える*
このだだっ広い平原で定期便も通らねぇ日に、俺らと同程度にココに着くのは…あのチンピラ同様、森を通ったヤツにしかできないからな。
…………。
目ぇ合わせた時も魔力飛ばしてきたし、横になっても魔衣 解除してねぇし…。 医者のフリしてるが、同業だろ。お前も。
……はえー、どっちもバレてたんすねー。
神経魔術師かはともかく、てっきりおたくも、初クルムラドのおのぼり冒険者かと思ったんすけど。
案外土地勘がおありのようで。
で、どうするんすか?
俺が真犯人だーって、ミオラちゃんたちに教えるつもりでも?
別に。あいつは会ったばかりの他人だしな。
あっちに着くまでの行きずりで、律儀にしてやる理由もねぇよ。
へぇー。
それなのに、わざわざ俺に話しかけて真偽を探るなんて、おたくも物好きっすね。
…………。
ま、お互い後ろめたいことがあるなら、これ以上探るのは よしときましょっか!
*ひらひらと手を振り、再び寝台に横になったかと思えば振り返って*
あ、一応言っとくと、昼にあんたらに言ったこともほんとなんで!
ミオラちゃんをどうこうしたがってたのは依頼主で~、俺自身は別に~。かわいいっすけどね。
そっちのほうがタチ悪いじゃねーか
ウラオモテがなくていいっしょ?
胡散臭いの間違いだろ。
まーまー。
とにかくおたくらに何かする気は毛頭無いんで、冒険者同士仲良くしましょ!
そんじゃ、おやすみなさーい。
*スヤァ*
(寝るの早いな)
本を読んでいた時には常に感じていた、
ヤブを包む魔力も薄れていくのがわかる。
宣言から間もなく
寝息を立て始めたヤブを見下ろし、
小さく息を吐いて立ち上がって
(向こうも俺を警戒してたみたいだが…、追手じゃないならそれでいい。)
俺も寝るか…。
自身の寝台まで移動してばたりと身を預けると、
大雑把に布を被り、目を閉じた。