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7話 壊れ、移ろう(1/6)
<クルムラド 冒険者ギルドにて>
ふあー…
(あー、ダル…。
血を吸われると、どーしても翌日に響くわね…。)
…ん?
情報収集の日課でギルドに足を運ぶも、
入り口は人でごった返していた。
その人集りの中心には
鎧を纏った騎士の姿があるのを、
ストリィは人影の隙間から捉えた。
何かしら、アレ?
<クルムラド某所 一室>
…………。
―、――、
<女性の声>
―、――…
(…ん。)
他人の声、
それも知人ではない声を察知してか、
意識が夢から現実へと戻ってくる。
魔術師は目を閉じたまま、
会話に耳を澄まし始めた。
(片方はヤブ…だろうが、女は誰だ?)
<女性の声>
処置は無事完了しました。
傷がキレイな切り口だったのが不幸中の幸いでしたね。
ですよねー。
おかげで傷を塞ぐのはワケなかったっすよ
<女性の声>
ユリシーズさんの治療もよかったんでしょう。
いやー、それほどでも――
誰だそれ
あ、起きましたか
聞き覚えのある声が
異なる名を呼ばれている違和感に
目を見開く。
そんな魔術師の続く言葉を遮るように、
ヤブは顔を覗き込んだ。
やだなー、忘れちゃったんすか、俺のこと?
ま、歩けば色々思い出すっしょ。
それじゃ、俺たちはこれで。
<白衣の女性>
はい、お大事になさってください。
促されるまま寝床から這い出ると、
魔術師はヤブに続いて施設を出た。
…………。
石畳で舗装された道を歩きながら、
辺りを見渡す。
レンガの塀に囲まれた敷地内には
様々な植物が植わっている。
それぞれのテリトリーが確保され、
手入れが行き届いているようだ。
(クルムラドにも、こういう場所があるんだな)
雑然としたこの街で、
落ち着いた雰囲気の場所はそう多くない。
今いる場所はどこなのか。
浮かんだ疑問を解消しようと、
息を吸って肉体に空気を送り
働きを促してやる。
清涼感のあるハーブの香りも助けとなって、
徐々に思考が戻ってきた。
…………あぁ。そうだった。
治療師ギルドにお邪魔してたんだったな、ヤb…ユリシーズさん?
もうヤブでいいっすよ。
コレがこんなすぐに役に立つとは思ってなかったっすけど。
ヤブは人相書きの部分を改竄した
治療師免許証――
ユリシーズ・ウィンターと名が記されている―― を
ひらひらと振って見せてから懐にしまった。
俺は寝てたから わかんねーんだが…。
わざわざ此処にくる必要ってあったのか?
あんたの治療でも、充分傷は塞がってただろ。
いや、塞がったって言っても表面上だけでしょ。 それ以上俺の力を使うのはダルかったんで、肩代わりしてもらいました。
ミオラは?
来るときは一緒だったろ。
ミオラちゃんは冒険者ギルドにいるはずっすよ。 なんか掲示板に人集りができたんで、情報収集を頼みました。
ミオラには何も手出ししてないんだよな
俺が答えるよりも、本人の様子を見たほうが 魔術師さんの気は済むんじゃないっすか?
軽口に無言の睨みを返されると、
ヤブは肩をすくめてから言葉を続ける。
まぁ、でもそうっすね…。
あの子、魔術師さんが気を失った後も逃げ出したりしなかったっすよ。 おかげで"影"も仕事がなくなって治療対象が一人で済みましたけど、
…………。
"影"ね…。あれはなんなんだ?
初撃をもらうまで魔力なんて感じなかったぞ。
あれは『吸血鬼』が扱う、影魔術ってやつらしいっすね。
俺も詳しいことは知らないんすけど、
アレを使って人を懲らしめてるみたいっす。
俺に憑いてるのも、さしずめ口封じってとこかと。
(『吸血鬼』…。こいつがヒソゥで手を貸してた依頼人って、吸血鬼だったのか。)
つーか口封じなら、なんであんたより先に俺が影に襲われたんだよ
知らないっす。魔術挙動の文句は吸血鬼さんにドーゾ。
まぁ俺は取り憑かれてて逃げ場は無いわけっすし…、周囲にいた目撃者を先に潰しとこうってところじゃないっすか?
俺ならそうするんで。
ちなみに、魔術師さんは吸血鬼に遭ったことあります?
いいや。ただ魔術師として圧倒的に格上だから相手するなって程度の知識しかないな。
それを昨日、身をもって知ったわけだが。
その吸血鬼の名前は?
そこはノーコメントで。
お前…、仮にも今の俺たちは運命共同体じゃねーの? 情報を出し渋ってる場合かよ。
いや名前を言ってまた影が襲ってきたら困るっすし!
それに俺、魔術師さんを信じてるんで!
物は言いようだな
相変わらずの態度に呆れるが、
変に焦ったり急かされるよりはいい。
…一応聞いとくと、あんたは追手じゃないんだよな
いいえ。あれ、これって"はい"の方が正しいんでしたっけ?
とにかく追手ではないとだけ。
魔術師さん、追われるようなことしたんすか。
ノーコメントで。
ですよねー。ま、いいっすけど。
死ぬかもしれなくても、言いたくないことあるのが冒険者っすよ。