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5話 白き影(5/6)


<邸宅内 カロリーナの部屋>

キャロ

…………。

椅子に腰掛け、窓から淡く注ぐ
月の光を浴びながらじっと外を眺めている。

そうしていると、
扉からノック音が響いた。

キャロ

…冒険者さんですか?

<魔術師>
あぁ。
ミオラがディムと廊下で会って件のゴーストと一悶着あったらしくてな。
怯えて逃げたってんで、そっちに居るんじゃないかと思ったんだが

キャロ

まぁ…! だからあの子あんなに怯えて……。

<魔術師>
そんなわけで、護衛するにも部屋の外じゃあな。
入っても?

キャロ

どうぞ。

魔術師

邪魔するぜ。

許可を得て室内に入り、
室内を見渡す。

その姿を見て、
カロリーナは小首を傾げた。

キャロ

あなたお一人ですか?

魔術師

あぁ。ミオラはゴーストと接触して弱ってるんでな。
ヤブに診てもらってる。

キャロ

そうですか…。

魔術師

ディムは?

キャロ

落ち着かせて、先程眠らせました。

魔術師

そうか。

少女から視線が向けられたままなので、
見下ろすのもなんだと、
ローテーブルを挟んで
向かいの椅子に腰掛けた。

魔術師

…あんたは随分冷静だな。

キャロ

あれだけ弟が取り乱していたら、却って気が引き締まりますもの。

魔術師

確かに。こっちも似たようなものだ

魔術師

まぁ、俺等は実物を見てないってのもあるかもな。
食ったことのない食べ物の味を、想像することはできないだろ。

キャロ

そうですね。
それが苦かったり、耐え難い味をしていたら…知らないほうが幸せかもしれません。

キャロ

それでも…、食べないと、生きていけませんから

――、

魔術師

!!

言うが否か、ゴーストが
音もなく魔術師の背後に姿を現す。

気配を感じて振り返る頃には、
自らの肉体へ相手の侵入を許していた。

魔術師

ぅぐッ―――

キャロ

!?
あの子じゃなくてあなたも……!?

魔術師

(魔衣まぎぬを張ったのが効いてるみたいだが、 長くはたねぇ―――)

ヤブ!!

キャロ

なっ―――

ヤブ

これホントに効くんすかあ?!

魔術師が声を張り上げると、
ヤブが扉から革袋を構えながら躍り出る。

革袋の口を開け、
中身の白い粒子を ゴーストめがけてぶち撒けた!

!?

粒子は命中した箇所に、
細々と空洞の穴を空ける。

すると堪らず、
ゴーストは魔術師の身体から離れていく――

魔術師は幾分軽くなった右手で
黒く濁った核らしき部位に
指先を向けて、狙いを定めた。

魔術師

眠っとけ!

――!!

短く詠唱し、
顕現した一筋の雷光がゴーストを貫く。

同時に核が弾け、対象は霧散していった。

キャロ

…………。

キャロ

そん、な…。

一瞬で事が終わった。

鋭い光が部屋一帯を照らし、
白い影が消滅するまでの光景が
カロリーナの脳裏に焼き付いて離れない。

月光を避けて影の落ちる部屋で、
少女は力なく項垂れるしかなかった。