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5話 白き影(5/6)
<邸宅内 カロリーナの部屋>
…………。
椅子に腰掛け、窓から淡く注ぐ
月の光を浴びながらじっと外を眺めている。
そうしていると、
扉からノック音が響いた。
…冒険者さんですか?
<魔術師>
あぁ。
ミオラがディムと廊下で会って件のゴーストと一悶着あったらしくてな。
怯えて逃げたってんで、そっちに居るんじゃないかと思ったんだが
まぁ…! だからあの子あんなに怯えて……。
<魔術師>
そんなわけで、護衛するにも部屋の外じゃあな。
入っても?
どうぞ。
邪魔するぜ。
許可を得て室内に入り、
室内を見渡す。
その姿を見て、
カロリーナは小首を傾げた。
あなたお一人ですか?
あぁ。ミオラはゴーストと接触して弱ってるんでな。
ヤブに診てもらってる。
そうですか…。
ディムは?
落ち着かせて、先程眠らせました。
そうか。
少女から視線が向けられたままなので、
見下ろすのもなんだと、
ローテーブルを挟んで
向かいの椅子に腰掛けた。
…あんたは随分冷静だな。
あれだけ弟が取り乱していたら、却って気が引き締まりますもの。
確かに。こっちも似たようなものだ
まぁ、俺等は実物を見てないってのもあるかもな。
食ったことのない食べ物の味を、想像することはできないだろ。
そうですね。
それが苦かったり、耐え難い味をしていたら…知らないほうが幸せかもしれません。
それでも…、食べないと、生きていけませんから
――、
!!
言うが否か、ゴーストが
音もなく魔術師の背後に姿を現す。
気配を感じて振り返る頃には、
自らの肉体へ相手の侵入を許していた。
ぅぐッ―――、
!?
あの子じゃなくてあなたも……!?
(魔衣を張ったのが効いてるみたいだが、
長くは保たねぇ―――)
ヤブ!!
なっ―――
塩ホントに効くんすかあ?!
魔術師が声を張り上げると、
ヤブが扉から革袋を構えながら躍り出る。
革袋の口を開け、
中身の白い粒子を
ゴーストめがけてぶち撒けた!
!?
粒子は命中した箇所に、
細々と空洞の穴を空ける。
すると堪らず、
ゴーストは魔術師の身体から離れていく――
魔術師は幾分軽くなった右手で
黒く濁った核らしき部位に
指先を向けて、狙いを定めた。
眠っとけ!
――!!
短く詠唱し、
顕現した一筋の雷光がゴーストを貫く。
同時に核が弾け、対象は霧散していった。
…………。
そん、な…。
一瞬で事が終わった。
鋭い光が部屋一帯を照らし、
白い影が消滅するまでの光景が
カロリーナの脳裏に焼き付いて離れない。
月光を避けて影の落ちる部屋で、
少女は力なく項垂れるしかなかった。