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7話 壊れ、移ろう(4/6)


ストリィ

…なるほど。大体話はわかったわ。
ヤブに憑いてる『シャドウ』を、アタシにどうにかしてほしいってワケね

ストリィ

なら簡単じゃない。
シャドウ』の射程圏に他人を巻き込まないよう、ヤブを置き去りにすればいい。

ヤブ

それ俺一人で死ねって言ってます??

ストリィ

だってアンタ ミオラを罠にかけて、魔術師も瀕死にさせたんでしょ?

ヤブ

いや魔術師さんは事故っすし!
っていうか、ミオラちゃんそこまでこの人に話してたんすか!?

ミオラ

出すとこ出してないだけ親切だと思ってるんですが…。

ヤブ

女性陣が敵だなんて…。世知辛いにもほどがあるっすよ。
どうします、魔術師さん

魔術師

なんで俺は味方だと思ってんだよ

ストリィ

…とまぁ、最終手段は置いといて―――

ストリィ

シャドウ』は吸血鬼の魔力を分け与えられて動く、第二の手足のハズ。
力には力で…魔力には魔力をぶつけて削るのが一番いいんじゃない?

魔術師

微妙に憶測入ってないか?

ストリィ

仕方ないでしょ!
アタシは魔術師じゃないから、このやり方で倒したことがないのよ。 そんなまどろっこしいことしないで、本体を仕留めれば済む話だからね。

ストリィ

アタシが直接手を下したいのは山々だけど、 話を聞く限り、吸血鬼の名を明かすのは危険だろうし。
口封じで放ったシャドウなら、それを攻撃条件にしてる可能性は高いわ。

魔術師

なるほどな。

ミオラ

でもよかった… 正攻法で解決できそうですね!

ストリィ

それが、そうでもないのよね

ミオラ

ストリィ

だって標的はかげよ。 今もヤブに潜んでいることはわかっても… どこに本体が紛れてるか、アンタたちわからないでしょ?

ヤブ

げぇ~。
シャドウにも本体とか弱点があるって言いたいんすか?

ストリィ

そーゆーこと。
シャドウに敵対するなんて、正体に気づいたヤツしか 取らない行動だし…。これも十中八九、攻撃条件を満たすでしょうね。

魔術師

弱点を見極めて、一撃で決めたいところだな。
二の矢の魔術が シャドウの速さに敵うと思えねぇ

ストリィ

ふーん。腐っても魔術師ね。
頭が回るじゃない

感心したように一度首肯しながら、
ストリィは右脚のベルトに収められた
小瓶の一つを手に取る。

無色透明な液体の入ったそれを
魔術師たちに掲げて見せた。

ストリィ

今回は特別に、ストリィ様御用達の
『聖水』を使ってやっていいわ。

ヤブ

!!!!

ミオラ

せーすい…とは?

ストリィ

聖水は魔を払う清水ね。教会の連中が精製してる。
ま、冒険者には馴染みが薄いかしら。

ストリィ

これでシャドウを無力化して、 その間に吸血鬼に弾丸をブチ込む。 アタシたち狩人の、吸血鬼狩りのセオリー。

聖水を受けたらかげは何かしら動きを見せるはずだから、 そこでシャドウを的確に見抜いて、撃ち抜きなさい。

魔術師

わかっ―――

ヤブ

いやいやいやちょっと待ってください

魔術師

ヤブ

聖水ってマジっすか?
んな高いモン使ってもらったって、 俺たちそんな金額手持ちに無いかなーって

ミオラ

(たち?)

ストリィ

コレしか方法がないなら使うしか無いでしょ。

ヤブ

"いくら"っすか?

ストリィ

…払えると思ってないし、 アンタ達の影が片付いたら アタシの仕事を手伝ってくれればそれでいいわよ

ヤブ

あー…

ミオラ

ありがとうございます!

感極まった様子で椅子から立ち上がり、
さっとストリィの手を取った。

ミオラ

急で危険な頼みだったのに こんなに親身になってくれて…。 この戦いが終わったら、きっとストリィさんの役に立ってみせます!

ストリィ

感謝するべき人間アンタじゃないでしょーが!?

魔術師

…………。

魔術師

…しばらくあいつのタダ働きになりそうだな。
生き残れたら、の話だが。

ヤブ

アーー……

魔術師

…ちなみに聖水ってどれくらいすんだよ

ヤブ

あのサイズで1000Gはするかなーって

魔術師

1000G。
それは一般的に一宿一飯分の相場である。

根無し草の冒険者は、
宿代を報酬の基準に依頼をこなし、
雨風をしのいでその日を越せれば
上々といったところだ。

シャドウの討伐で聖水を用いる際は、
素人感覚でもあの量じゃ済まない予感がする。

ゴースト退治で得た報酬が吹き飛ぶのは
想像に難くなかった。

魔術師

…てめぇ、 生き残ってから逃げたら呪殺するからな

ヤブ

逃げは もはや習性なんで、優しーく足止めでよろしくおねがいしまっす