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8話 邂逅(3/--)


<貪欲の小枝亭 1F酒場>

ヤブ

俺も元・共犯者とはいえ…こうして冷静に振り返るとひどいっすね、今回の出来事!

ヤブ

魔術師さんは俺の冤罪と、影による失血重体。
ミオラちゃんは俺の幻術によって遭難。加えてシャドウによる負傷。

ヤブ

そんでストリィさんは、魔術師さんがミオラちゃんを助けたことによって標的が移ってイェレさんの餌食に!
最終的に俺は、シャドウを植え付けられて魔術師さんの治療費を負担。死の危険にさらされ続けた…。

イェレ

まるで星座だな。

ストリィ

何がよ!?
というか、イェレに負けず劣らずヤブも邪悪に見えるんだけど?

ヤブ

いやー、それは買いかぶりっすよ!
パーティーの痴情のもつれに比べたら全然マシなんで!

ストリィ

褒めてないんだけど??

イェレ

ほう、人間の色恋沙汰はこれよりも複雑怪奇なのか。

ヤブ

星座なんてきれいなもんじゃないっすよ。
もっとずぶずぶの泥沼―――

魔術師

何の話だよ

ミオラ

戻りました!

ストリィ

ミオラ! もう具合はいいの?
無理にこんなバカ達の会話に混ざらなくて大丈夫よ

ミオラ

はい!
なんだかもう、いちいち気にしてるだけ損だなって思えてきて…。

ヤブ

…………。

ストリィ

…そう。ならいいけど。

魔術師

それで…。イェレ、だったっけか。
あんたに聞きたいことがある。

イェレ

答えられるものなら答えてやってもいい。

魔術師

たすかる。
魔術にも通じてる目利きの商人さんは貴重なんでな。 それじゃ早速……

魔術師

この本について何か知らないか

既に具現化させて懐にしまっていた
「黒の書」を取り出し、
イェレに向かって差し出すようにしてテーブルに置く。

イェレ

…………。

イェレは本を手に取り、背表紙から小口まで
くるくると回しながら観察する。

それが済むと本を置き、
腕を組んで魔術師を見た。

イェレ

…知らないな。初めて見る意匠だ。
魔術書の類か?

魔術師

おそらくは。
俺もコイツについて詳しくねぇのさ。毎晩解読してるくらいにはな。

イェレ

ふむ。自力でやるとは熱心なことだ。
なら呪文も何もわからない未鑑定品か?

魔術師

確かに鑑定士には出しちゃいないが…今わかってることの中で、コイツには『影』を顕現させて操る術がある。
それがあんたにゆかりがあるんじゃないかと思ったんだが、どうだ?

イェレ

いいや。
俺たちの血をひく者以外で、影を操るすべがあるのは初耳だな。

魔術師

そうか。
じゃあ俺がやけにあんたのシャドウに狙われたのはマグレってことか?

イェレ

その節は俺のシャドウが迷惑をかけた。
だがアレには、こちらの存在を気取られた際、そして期日までに血を得られなかった際に宿主を始末する以外の命令を与えたつもりはない。

魔術師

…なるほど。

イェレ

期待に添えられずにすまないな。

魔術師

べつに。「わからない」ってことがわかっただけで十分収穫だ。
わからないことばかりなのには慣れてる。

ミオラ

…………。

イェレ

聞かれたついでだ、俺もお前に問いたい。
この本はどこで手に入れた?

魔術師

企業秘密で。
あんたとは会ったばかりだしな。

イェレ

そうか。それもまた答えだな。

ヤブ

あのー。堅苦しい話はもう終わりました?
早く酒とメシいれたくてしかたないんすけど!

ストリィ

…そうね。アタシもお腹すいたし、手伝いの話は食べながらでももういいわよ別に。

ヤブ

(よっしゃ!!)

ストリィ

すっぽかすようならイェレに影を送るように言えばよさそうだし。
できるわよね?

イェレ

あぁ。その分多く血を戴けるだろうからな。
全くもって構わないぞ。

ヤブ

…………。

ストリィ

…………。

魔術師

(この吸血鬼…相当アクが強そうだな。)

ミオラ

(大変だろうなぁ、ストリィさん…。)