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4話 眠れぬ夜のゴースト(6/6)


魔術師

は~

ミオラ

どうしたんですか?
ため息ついて

魔術師

いや、普通に調子狂うだろ

魔術師

本命のゴーストが出るのが夜だからって、それまで屋敷で適当にくつろげって言うんだぜ? こんな扱いされたことねーよ

ヤブ

え。魔術師さんあんた、これでももてなしが足りないと…?

魔術師

逆だろ!!
金持ちからまともな扱いされたことねーって話!

ヤブ

まー確かにそうっすね。

まず家に呼ばれないっすし。
今回の件も、要件伝えて"夜になったらまた来い"とか言えそうなもんっすからね。

キャロ

私達の対応はおかしかったですか?

ミオラ

え?

声に振り向くと、部屋の入口に
カロリーナがトレーを持って立っている。

注ぎ口から湯気の立つティーポットと、
縁に金の塗装があしらわれた皿の上には
香ばしい焼き菓子が載っているようだ。

キャロ

あ。すみません。
私ったらノックもベルも無しに…。

ミオラ

いえお気になさらず…って、美味しそうなお菓子…! いただいちゃっていいんですか?

キャロ

はい。
ディムのおやつの時間なので、皆さんもどうぞ。

魔術師

お気遣いどーも。
けど、あの使用人…ローサだっけ? あっちに持ってかせりゃいいんじゃねぇの。

キャロ

ローサは館の掃除をしていますから。
…それに、あの子が持っていったら皆さんにお茶をかけてしまうと思うので。

ヤブ

(なるほど。ローサちゃんはドジっ子メイド、…っと。)

キャロ

それに…。今まで冒険者さんとお話をしたことがなくて。 冒険者さんは、普段どんなお仕事をされているんですか?

魔術師

ふーん、冒険者の話に興味があるのか。
変わってるな。

魔術師

そうは言っても、聞いたところで面白いものなんてないぞ。
冒険者なんて基本パシりか肉体労働か喧嘩の代わりか…。 竜や魔物を相手に立ち回るなんて、おとぎ話や詩人のホラ話の世界だぜ?

キャロ

ええ。だからこそ何をやっているかわからないので。

魔術師

(…俺たちはどこの馬の骨とも知れない奴らだしな、向こうからすれば当然か。
それ抜きでも、箱入りそうだ。)

魔術師

俺は…そういや名乗ってなかったな。でも名乗るほどのモンじゃねぇから魔術師でいい。 気の荒い生き物だとかならず者を…追い払ったりする依頼をよく受けてる。

キャロ

まぁ…。外の世界はそうした荒事は日常的にあることなんですね。

ミオラ

そうですね…。やっぱり人の目の届かない集落の外は物騒ですから。
私は野盗の討伐に商隊の護衛…森が近い所なら、野草の採集をしてました!

ヤブ

魔術師さんもミオラちゃんも、力があって羨ましいっすねー。
俺は治療師ギルドの点数稼ぎに薬草を採るくらいっすよ。

魔術師

ヤブは治療費を高く取るのもそうだろ?

ヤブ

いやあれはいわゆる依頼じゃないんで別枠っす

キャロ

冒険者と言っても得意なことが違って…。
…ふふっ。皆さんいいお仲間なんですね。

魔術師

(それがお互い会ったばかりな上に初依頼なワケだが…言わなくていいことだな。)

ディム

ねーちゃん!

キャロ

! ディム、勉強は?

ディム

終わった! つーか抜け駆けはずるいだろ!
オレだってボーケンシャの話 聞きたいっつーの!

魔術師

どんな仕事してるかはもう話したぞ。

ディム

いや そーじゃねーだろ!?
何もう語り尽くしたみたいな顔してんだよ!

ディム

やっぱ冒険と言ったら、ピンチとそれを切り抜けるロマンだろ! オマエたちは最近そういう事なかったのかよ?

魔術師

ピンチね―――

魔術師

………………あっ。

ヤブ

言われてみればあったっすねぇ。それも直近に!
あの時はヤバかったっす、俺が投げ千本で隙を作ってなかったらどうなってたか…。

ミオラ

あぁ、あの未確認の獣の―――って、 ヤブさんはまっ先に逃げてましたよね!?

ヤブ

あれは立派な戦略的撤退なんで!

魔術師

(…そうか。

あのデカブツ、既視感があったのは…。)

魔術師

(魔物図鑑で見た獣…"ベヒモス" に似てたのか)