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5話 白き影(2/6)
<~夜~ 邸宅内 廊下>
(は~、さっぱりした!
宿や大浴場じゃこうはいかないもの)
!!
あ、ローサさん。こんばんは!
こ、こんばんはです~
お言葉に甘えて、お先にお風呂を頂きました!
久々に一人でのんびりできて最高でした。
そ、それならよかったです~…。 私はみなさんに大したお構いができないので~…。
そんな、このお屋敷で快適に過ごせてる時点で、ローサさんに十分お世話になってますよ。
あわ…。あ、ありがとうございます~…!
では、私はこれで~
(恥ずかしがり屋さんなんでしょうか)
単純に向こうも仕事があるのだろうが、
どうにも常におどおどしたローサを見ると、
勝手な憶測が頭に浮かぶ。
そそくさと去る使用人の後ろ姿を
ぼんやりと視界の端に映しつつ、
ミオラも寝ずの番をするために、
ディムの部屋に向かう。
(それとも冒険者って荒くれ者のイメージが強いとか?
魔術師さんたちならまだしも、私もそう見えるならなかなか難儀な肩書ですね)
ミオラ!
あ、ディムくん!
ちょうどそちらに行こうと
っで、ででで、
(これは…)
こちらに走り寄り、
狼狽した様子の少年を目の当たりにして
ミオラは対照的に気を引き締める。
ゴーストが出たんですね? 大丈夫、私がついてますから
そっ、そー、ばけものが
オレの、ことっ、追って―――
!!
ディムの言葉を聞き、警戒するために
視線を少年から背後の通路へと移す。
曲がり角から姿を現した、
それらしき異形と目が合った。
合ってしまった―――
―――
(!? 身体が…)
護身用のナイフに手をかけた体勢から、
身体を動かすことが出来ない。
月明かりが射し込むだけの廊下で
暗がりに佇むぼうっとした白い影は、
こちらに近づくほどに、
名状し難い冷気を伴って
生命の危機感に訴えかけてくる。
このままではまずいとわかっていても、
今まで見聞きしてきた生物の特徴に合致しない、
その異形から目を逸らせない。
静寂に包まれたまま、
影は眼前まで肉薄していた。
っ…!
瞳が接しそうなほどの距離になり、
思わず目を閉じる。
ぶつかることはなかったが、
異形が自身の輪郭と重なった。
(――ッ!?)
肺が、臓物が血液が、
自らを構成する物体すべてが
凍てつく感覚に襲われる。
息を吸おうにも、先程まで自分がどうやって
呼吸をしていたかわからないほどに、
意識と感覚が遠ざかっている。
(そん、な こんなところで――)
―、――
!!
死を予感した直後、
糸が切れたように身体の自由が戻る。
生命活動を続けるため、
ミオラの身体は大きく咳き込んだ。
苦しみを伴うそれも、
肉体が 氷に成れ果てたとまで感じた今、
熱が戻る心地に
却って生を実感するほどだった。
―っハ、ぁ…!
…! だ、だいじょーぶなのか、ミオラ
…は、はい!
ディムくんこそ怪我はないですか…!?
オレはへーき…、アイツは消えたみたいだし……
それならよかった…。
自らも周囲を確認しながら、
不安げな表情でいるディムに
小さく笑いかけながら頭を撫でる。
立ち上がり、手を差し伸べた。
魔術師さんたちと合流しましょう。
みんなで力を合わせればなんとかなりますから!
……………………
……いい
え?
ムダだ、あんなヤバイヤツに、かなうわけない。
動けなくなって、何もできなかったボーケンシャに何ができるんだよ!
!!
呆気に取られている間に、
ディムはその場から一目散に走り去る。
部屋の戸が乱暴に閉ざされる音が、
静かな廊下に反響した。