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5話 白き影(2/6)


<~夜~ 邸宅内 廊下>

ミオラ

(は~、さっぱりした!
宿や大浴場じゃこうはいかないもの)

ローサ

!!

ミオラ

あ、ローサさん。こんばんは!

ローサ

こ、こんばんはです~

ミオラ

お言葉に甘えて、お先にお風呂を頂きました!
久々に一人でのんびりできて最高でした。

ローサ

そ、それならよかったです~…。 私はみなさんに大したお構いができないので~…。

ミオラ

そんな、このお屋敷で快適に過ごせてる時点で、ローサさんに十分お世話になってますよ。

ローサ

あわ…。あ、ありがとうございます~…!
では、私はこれで~

ミオラ

(恥ずかしがり屋さんなんでしょうか)

単純に向こうも仕事があるのだろうが、
どうにも常におどおどしたローサを見ると、
勝手な憶測が頭に浮かぶ。

そそくさと去る使用人の後ろ姿を
ぼんやりと視界の端に映しつつ、
ミオラも寝ずの番をするために、
ディムの部屋に向かう。

ミオラ

(それとも冒険者って荒くれ者のイメージが強いとか?
魔術師さんたちならまだしも、私もそう見えるならなかなか難儀な肩書ですね)

ディム

ミオラ!

ミオラ

あ、ディムくん!
ちょうどそちらに行こうと

ディム

っで、ででで、

ミオラ

(これは…)

こちらに走り寄り、
狼狽した様子の少年を目の当たりにして
ミオラは対照的に気を引き締める。

ミオラ

ゴーストが出たんですね? 大丈夫、私がついてますから

ディム

そっ、そー、ばけものが

ディム

オレの、ことっ、追って―――

ミオラ

!!

ディムの言葉を聞き、警戒するために
視線を少年から背後の通路へと移す。

曲がり角から姿を現した、
それらしき異形と目が合った。

合ってしまった―――

―――

ミオラ

(!? 身体が…)

護身用のナイフに手をかけた体勢から、
身体を動かすことが出来ない。

月明かりが射し込むだけの廊下で
暗がりに佇むぼうっとした白い影は、
こちらに近づくほどに、
名状し難い冷気を伴って
生命の危機感に訴えかけてくる。

このままではまずいとわかっていても、
今まで見聞きしてきた生物の特徴に合致しない、
その異形から目を逸らせない。

静寂に包まれたまま、
影は眼前まで肉薄していた。

ミオラ

っ…!

瞳が接しそうなほどの距離になり、
思わず目を閉じる。

ぶつかることはなかったが、
異形が自身の輪郭と重なった。

ミオラ

(――ッ!?)

肺が、臓物が血液が、
自らを構成する物体すべてが
凍てつく感覚に襲われる。

息を吸おうにも、先程まで自分がどうやって
呼吸をしていたかわからないほどに、
意識と感覚が遠ざかっている。

ミオラ

(そん、な こんなところで――)

―、――

ミオラ

!!

死を予感した直後、
糸が切れたように身体の自由が戻る。

生命活動を続けるため、
ミオラの身体は大きく咳き込んだ。

苦しみを伴うそれも、
肉体が 氷に成れ果てたとまで感じた今、
熱が戻る心地に
却って生を実感するほどだった。

ミオラ

―っハ、ぁ…!

ディム

…! だ、だいじょーぶなのか、ミオラ

ミオラ

…は、はい!
ディムくんこそ怪我はないですか…!?

ディム

オレはへーき…、アイツは消えたみたいだし……

ミオラ

それならよかった…。

自らも周囲を確認しながら、
不安げな表情でいるディムに
小さく笑いかけながら頭を撫でる。

立ち上がり、手を差し伸べた。

ミオラ

魔術師さんたちと合流しましょう。
みんなで力を合わせればなんとかなりますから!

ディム

……………………

ディム

……いい

ミオラ

え?

ディム

ムダだ、あんなヤバイヤツに、かなうわけない。
動けなくなって、何もできなかったボーケンシャに何ができるんだよ!

ミオラ

!!

呆気に取られている間に、
ディムはその場から一目散に走り去る。

部屋の戸が乱暴に閉ざされる音が、
静かな廊下に反響した。