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10話 澱める風(3/--)
魔術師さん……。
わざと出血してスライムに呑まれるなんて……。
(あれは魔術的な準備の一つなんだろうか?
そうだとしても、あの出血量は危険すぎる―――)
!?
身体の向きを変えようとして
重心を動かしたが、
足に掴まれたような重みがあった。
体勢を崩して地面に倒れこみ、
その拍子に松明が手から落ちる。
いつの間にか足元に迫っていたゲルが、
ミオラの片足を掬っていた。
ッ、この…!
空いた手へ残っていた
もう一振りの剣を握り、
ゲルを斬ろうと刃を下ろす。
ところが分断しきる前にゲルの切り口が
元通りになってしまった。
ゲルに包まれた得物を抜こうとするも、
びくともしない。
(まずい、このままじゃ私まで…!)
ミオラー、そのまま動かないで
ねッ!
!!
合図を聞き届けたと同時に
えるふはスライムめがけて
拳を突き下ろしていた。
風を感じたかと思えば、
ミオラの足につながっていたスライムが
すっぱりと切り分けられている。
本体と分かれたゲルの塊は
粘性を徐々に失い、
ミオラの足と剣を自由にした。
ありがとうございます、助かりました…!
どーいたしまして!
こいつらいつのまに背後にまで来てたみたいだねー
入口…じゃなくて、今は出口?
あそこがふさがれちゃってるもん
くっ…、獲物を逃げられなくして、衰弱したところを捉えるわけですね…!
先に調査に来ていた人たちはコレにやられて―――
帰っちゃおっか?
え
あまりにも悪意なく、
普段の調子で言葉が放たれたせいか
意味を瞬時に理解することができなかった。
首を傾げることもできずに
硬直していたミオラを見かねて、
えるふは再び口を開く。
出口をふさいでるスライムも、えるふのまほー拳で出られると思うよ?
そんな…、二人を見捨てるんですか!?
だってボクとミオラじゃお手上げでしょ?
それは……。
ボクたちにできることがないなら、ちゃんと生きて帰らないと。でしょ?
まじゅつしもそう言ってたし、ライノがまた一人になっちゃうのは…えるふはヤダから
…………。
…あなたの言うことはもっともです。
それでも…。私は残ります。
土壇場で不測の事態が起きるのは覚悟の上です。
そして大概…魔術の扱えない私が、役立てないということも。
…………。
だからこそ私にできることは…、仲間を信じ、巡るかもしれない好機を、逃さずに"いる"ことなんです。
そうでなければ、対人戦しか取り柄のない私がこの先…、こうも立て続けに現れている魔獣相手に生き残ることはできないでしょう。
それに…魔術師さんはああ言ってましたが、しくじらなければ、彼はスライムを倒します!
今 私にできることがなくても…、消耗した二人を無事に導く役目が残されているはずですから。
…………そっか。
わかった!
そこまで言うならえるふも残る!
!? そんな、えるふさんを巻き込むわけには
いーのいーの!
ここまでなかまを信じてるぼーけんしゃをみすてたら、ライノになにいわれるかわかんないし!
話しながら出口に歩みを進め、
右の拳に炎を纏わせて構えをとる。
出口をふさぐスライムめがけて
拳とともに火花を炸裂させると、
熱にただれて風穴が空いた。
ほんとにやばくなったらミオラもつれて帰るからねー
それまでがんばろ!
…! はい!!