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10話 澱める風(6/6)


村人

…………。

ヤブ

どーも。

村人

! …あんたか。
何か用か?

ヤブ

何やら包帯を気にしてるようでしたけど…。傷が痛むなら診ましょうか?
これでも治療師ヒーラーやってるんで、一晩世話になるお礼にタダでいいっすよ

村人

…いや、結構だ、

ヤブ

じゃあせめて包帯を替えるだけでも!
自分で巻くの大変でしょーし

村人

…な、なんだよお前、いいって言ってるだろ!

ヤブ

すみませーん、下手くそな包帯の巻き方見ると気になっちゃう性質なもんで。

多いんすよ、包帯の下に何かを隠してる人。
例えば組織の符号になる印だとか、神経魔術師に付与された迷惑な呪印とか―――

ヤブ

あとは…、吸血鬼に噛まれた痕、とか。

村人

!!

ヤブ

(わっかりやすー)
もしあんたが吸血鬼に噛まれたことで奴等のどれぃ――眷属化する可能性に怯えてるんだったら、その筋に詳しい知り合いがいるんで、治せるよう紹介できますけど

村人

あんた…冒険者じゃなくて吸血鬼狩人ヴァンパイアハンターだったのか

ヤブ

まったく知識がない冒険者と比べたら、そうとも言えるんすかね

村人

なら…。別に話すことはないな。
別に俺は助けも必要ないし。

ヤブ

あんた 自ら吸血鬼になることを選んだクチっすか

村人

いいや。
血を採るけど眷属にはならないから安心しろって、その吸血鬼が言ってたから

ヤブ

ふーん。ずいぶんとお気楽なもんで。
眷属にもせず、顔を見た人間をわざわざ生かしたままにする吸血鬼がいるとでも?

村人

…俺は、吸血鬼に詳しくないけど…。
そういうやつも、世界に一人くらいいるんじゃないのか。

村人

顔って言ったが…あぁ、その通りだよ。
もうどんなヒトだったか覚えちゃいないんだ。

思い出そうとすればするほどぼやけていく……。 まるで全部、夢だったみたいに……。

ヤブ

…………。

<農村ヘルドマ 村人の家屋の一室>

ヤブ

ただいま戻りました

魔術師

おかえり。
収穫はあったのか

ヤブ

そうっすね~。
あったとも言えるし、なかったとも言えるって感じっす。

魔術師

手掛かりはあったが、かと言って特段進展もないってやつか

ヤブ

まさに。ニュアンスの理解度高いな~
お互い雲をつかむような探し物をしてると苦労しますね

魔術師

俺は別に…お前ほど熱心じゃねぇよ。

ヤブ

あり。俺そんな必死に見えました?

魔術師

わかりきった閉所で頭切ったり、逃げもしない村の人間になる早で話聞こうとしたりしてたらな。
ストリィじゃねぇが、あんたも吸血鬼に因縁でもあるのか

ヤブ

俺が探してる相手とは…、因縁なんてないっすよ。
それどころか向こうは俺の事知らないと思いますし、会ったこともない

魔術師

? どういうことだよ

ヤブ

魔術師さんは"黒髪の乙女"の伝承って聞いたことあります?

魔術師

…………。

質問を質問で返され魔術師は眉をしかめたが、
過去に読んだ文献から該当する情報を
思い返しながら口を開く。

魔術師

それ、色々ありすぎて地域性出てるやつじゃなかったか?
俺が知ってるものだと…「森の奥に住む薬師の美女が、実は人食いのおっかない魔女だった。」…っていう童話めいたやつだな。

ヤブ

そうそう。 他には「貴族のもとに突如現れた傾国の美女」だったり、「泉に立ち寄った旅人を誘惑して水の底に沈めた美女」だったり…とにかく色々あるんすよ。
まぁ話の教訓としては、都合のいい女に傾倒したら痛い目見るぞってのばかりなんですが

ヤブ

これ、長い黒髪の女性なのが共通してるんすよね。
必ずと言っていいほどに。

ヤブ

でも人に伝えるにあたって、そこをわざわざ強調する理由って別になくないっすか?
伝えていくうちにただの美人に省略されたり、語り部好みの金髪美女に変えられる可能性もあるでしょ

魔術師

つまり…そこになんらかの意図があると。

ヤブ

はい。そこで俺が導きだした仮説が―――

ヤブ

"黒髪の乙女・・・・・"は実在している・・・・・・・
だからこそ、彼女と過ごした非日常的な体験を語らずにはいられない。
それは現在いまも尚生きて…伝承を生み出し続けているんじゃないかってね

魔術師

(まるで経験者の一人であるかのような口ぶりだな)

元より口数の多いヤブだが、
いつになく饒舌な様を見ると
そんな感想が頭に浮かんだ。

魔術師

…で、美形で長生きしてるなら吸血鬼、ってわけか。
あんたそういうオカルト的な伝承に興味あるんだな

ヤブ

意外でしょ~

魔術師

べつに…。
けど、会ってどうするんだ

ヤブ

それなんすよね~。
特別なにかしたいって訳でもないんすけど……まぁそれだけ美女で通ってたら、顔見てみたいじゃないっすか

ヤブ

単純にファンなんですよ、俺もね。