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10話 澱める風(6/6)
…………。
どーも。
! …あんたか。
何か用か?
何やら包帯を気にしてるようでしたけど…。傷が痛むなら診ましょうか?
これでも治療師やってるんで、一晩世話になるお礼にタダでいいっすよ
…いや、結構だ、
じゃあせめて包帯を替えるだけでも!
自分で巻くの大変でしょーし
…な、なんだよお前、いいって言ってるだろ!
すみませーん、下手くそな包帯の巻き方見ると気になっちゃう性質なもんで。
多いんすよ、包帯の下に何かを隠してる人。
例えば組織の符号になる印だとか、神経魔術師に付与された迷惑な呪印とか―――
あとは…、吸血鬼に噛まれた痕、とか。
!!
(わっかりやすー)
もしあんたが吸血鬼に噛まれたことで奴等のどれぃ――眷属化する可能性に怯えてるんだったら、その筋に詳しい知り合いがいるんで、治せるよう紹介できますけど
あんた…冒険者じゃなくて吸血鬼狩人だったのか
まったく知識がない冒険者と比べたら、そうとも言えるんすかね
なら…。別に話すことはないな。
別に俺は助けも必要ないし。
あんた 自ら吸血鬼になることを選んだクチっすか
いいや。
血を採るけど眷属にはならないから安心しろって、その吸血鬼が言ってたから
ふーん。ずいぶんとお気楽なもんで。
眷属にもせず、顔を見た人間をわざわざ生かしたままにする吸血鬼がいるとでも?
…俺は、吸血鬼に詳しくないけど…。
そういうやつも、世界に一人くらいいるんじゃないのか。
顔って言ったが…あぁ、その通りだよ。
もうどんなヒトだったか覚えちゃいないんだ。
思い出そうとすればするほどぼやけていく……。
まるで全部、夢だったみたいに……。
…………。
<農村ヘルドマ 村人の家屋の一室>
ただいま戻りました
おかえり。
収穫はあったのか
そうっすね~。
あったとも言えるし、なかったとも言えるって感じっす。
手掛かりはあったが、かと言って特段進展もないってやつか
まさに。ニュアンスの理解度高いな~
お互い雲をつかむような探し物をしてると苦労しますね
俺は別に…お前ほど熱心じゃねぇよ。
あり。俺そんな必死に見えました?
わかりきった閉所で頭切ったり、逃げもしない村の人間になる早で話聞こうとしたりしてたらな。
ストリィじゃねぇが、あんたも吸血鬼に因縁でもあるのか
俺が探してる相手とは…、因縁なんてないっすよ。
それどころか向こうは俺の事知らないと思いますし、会ったこともない
? どういうことだよ
魔術師さんは"黒髪の乙女"の伝承って聞いたことあります?
…………。
質問を質問で返され魔術師は眉をしかめたが、
過去に読んだ文献から該当する情報を
思い返しながら口を開く。
それ、色々ありすぎて地域性出てるやつじゃなかったか?
俺が知ってるものだと…「森の奥に住む薬師の美女が、実は人食いのおっかない魔女だった。」…っていう童話めいたやつだな。
そうそう。
他には「貴族のもとに突如現れた傾国の美女」だったり、「泉に立ち寄った旅人を誘惑して水の底に沈めた美女」だったり…とにかく色々あるんすよ。
まぁ話の教訓としては、都合のいい女に傾倒したら痛い目見るぞってのばかりなんですが
これ、長い黒髪の女性なのが共通してるんすよね。
必ずと言っていいほどに。
でも人に伝えるにあたって、そこをわざわざ強調する理由って別になくないっすか?
伝えていくうちにただの美人に省略されたり、語り部好みの金髪美女に変えられる可能性もあるでしょ
つまり…そこになんらかの意図があると。
はい。そこで俺が導きだした仮説が―――
"黒髪の乙女"は実在している。
だからこそ、彼女と過ごした非日常的な体験を語らずにはいられない。
それは現在も尚生きて…伝承を生み出し続けているんじゃないかってね
(まるで経験者の一人であるかのような口ぶりだな)
元より口数の多いヤブだが、
いつになく饒舌な様を見ると
そんな感想が頭に浮かんだ。
…で、美形で長生きしてるなら吸血鬼、ってわけか。
あんたそういうオカルト的な伝承に興味あるんだな
意外でしょ~
べつに…。
けど、会ってどうするんだ
それなんすよね~。
特別なにかしたいって訳でもないんすけど……まぁそれだけ美女で通ってたら、顔見てみたいじゃないっすか
単純にファンなんですよ、俺もね。