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7話 壊れ、移ろう(2/6)


<クルムラド 冒険者ギルド>

ストリィ

はぁ? 何してるかわからないけど見に来てる?
じゃあ、さっさとそこを退きなさいよ!

ストリィ

ったく、ただの野次馬がストリィ様の行く手を塞ぐんじゃな――

ミオラ

…………。

ストリィ

…って、アンタはたしか…ミオラ?

ミオラ

! ストリィさん!

ストリィ

アンタも考えなしに行列に並ぶタイプの冒険者?
この人集りに加担してるなら容赦しないわよ

ミオラ

い、いえ、なんでも騎士団から「御触れ」があるとかで…

ストリィ

「御触れ」?

何なんだろうな、告げ人クーリエも使わないで騎士団が直接知らせるようなことって…

もしかして、街にバケモノが出たって話とか? アレって本当だったの?

ストリィ

…………。

意識して会話に耳を傾けていると、
周囲が一層ざわめき始める。

輪の中心に居た騎士のもとに、
新たに鎧を纏った人影が2つ
加わったからだった。

ミオラ

(あれ。あの人、どこかで見たような)

青髪の騎士

静粛に!
これより冒険者諸君に、警戒令および討伐要請を通達する!

ストリィ

!!

青髪の騎士

我々騎士団がこの場に足を運んだのは、 公国より発令された『魔獣の変』の詳細を伝えるためだ。

まじゅー?

赤髪の騎士

現在、クルムラド周辺を始めとしたドルーレンヅには、 今まで見聞きしたことのない生物…異形としか形容しようのない脅威が多数報告されている。

この異形たちは、空想上の生物である『魔物』と似た性質が見られることから、『魔獣』と呼称することになった。

ミオラ

魔獣……。

当惑した雰囲気が漂う中、
此処数日で相対した異形を思い返しながら、
ミオラはその名称を自然と独り言つ。

場の空気に構わず、
騎士たちは言葉を続ける。

青髪の騎士

魔獣は黄金の瞳を持つ、非常に獰猛な異形だ。
中でもクルムラドに一度肉薄した「ベヒモス」は、体躯も力も、野生の獣を遥かに凌駕している。 我々騎士団でも手を焼いている状況だ。

青髪の騎士

よって…ベヒモスの首には、金貨50枚の賞金が懸けられることになった。

ミオラ

金貨!?

50枚だって!?

ウソ…一生遊んで暮らせるじゃん!

冒険者が一日で得られる報酬は、
G換算で大体1,000、
よくて2,000Gといったところだ。

そして金貨50枚は、
5,000,000Gに相当する。

場に居る冒険者たちが
色めき立たない理由がなかったが…。

ストリィ

…………。

ストリィ

(あの兵士の表情を見るに、今日までの交戦でそこそこ兵力を失ってそうね。
やれるもんならやってみろってところかしら。)

青髪の騎士

ベヒモスに限らず、人に襲いかかる植物や霊…など、既に複数の魔獣の姿と、それによる被害、死亡報告がされている。

赤髪の騎士

現に先日、ヒソゥの最寄り村落にいた半数が命を失った。
その中には、騎士の姿もある。

ミオラ

(ヒソゥの…って、もしかして、私がストリィさんと初めてお会いしたところじゃ…?)

青髪の騎士

諸君が依頼をこなす際にも、魔獣が現れる可能性は高いだろう。
加えて…魔術が使えない可能性もある。警戒を怠らないように。

!!

青髪の騎士

それでは、健闘を期待する。

近場の集落の被害に加え、
噂になっていた"魔術不能"を匂わす言葉。

不安の色が強くなった冒険者たちをよそに、
騎士たちはギルド中央の掲示板に
公示を貼り付けると、その場を後にした…。