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8話 邂逅(5/--)


ヤブ

いや~、呼石よびいし持つなんて久々だなー。
今まで持ってたのは大体すt…失くしちゃったんで。

イェレ

捨てるくらいなら下取りする方が金が手に入るが…。
金の亡者の癖に、変わった選択をしているな。

ヤブ

俺、イェレさんにそんな風に思われてたんすね…。

イェレ

前に自分で言っていただろう。

魔術師

今回もそれやる予定があるんなら、捨てないで俺に渡してからパーティー抜けろよ

ヤブ

あ、もう終わったんすか? ではありがたく。

魔術師

で、これはミオラの分な。

ミオラ

! ありがとうございます!

ミオラは魔力の込められた
――見目では特に代わり映えのしていない――
水晶を魔術師から受け取り、
目を輝かせてそれを眺めている。

ヤブは呼石よびいしを手中で弄びながら、
ふと、やけにニヤついた笑みを
魔術師に向けて口を開いた。

ヤブ

色々と一段落していい機会っすし…。
折角なんで俺たちの『パーティー名』決めません?

魔術師

え…。別にいらねぇだろ

ヤブ

いやいや、呼石よびいし持たせといて早期解散はないでしょ!
減るもんじゃないっすしー

ミオラ

私も賛成です!
パーティー名を名乗るの、憧れだったので!

魔術師

えー…。吸血鬼相手メインで活動なされているストリィさんたちはどう思います?

イェレ

あるぞ。

魔術師

え。

イェレ

ギルドや周囲の評判を得るなら、パーティー単位で名を覚えられた方が得なことが多いからな。 利用できるものは積極的に使う。

ストリィ

そうね…。アンタが何を心配してるのかは知らないけど、冒険者なんて元より軽い命でしょ。
ギルド向こうも長く名を目にしない限り覚えちゃいないわ。

魔術師

…なるほど。貴重なご意見サンキュー。
なら決めてもいいんじゃねぇの。 俺は考えねぇけど。

ヤブ

じゃあ『蒼の黎明』なんてどうっすか?

魔術師

!?

ミオラ

え!?
ヤブさんって命名センスあるんですね…?

ヤブ

ストレートに褒められると照れちゃうなー。
そんで、もちろんリーダーは魔術師さんで。

魔術師

お前これからの全責任を俺になすろうとしてねぇか??

ヤブ

照れちゃってやだなー、これまでの活躍を見ての適切な評価だと思うっすけど。

ミオラ

私も異論はないです!
今までの交戦も、魔術師さんが先だって方針を立てていましたし…。 それに応えられるよう、私も魔術師さんがリーダーなら頑張れますから!

ヤブ

ほらー、ミオラちゃんもこう言ってますし!
俺もあんたをリーダーに立てる以上、ちゃんと言うことは聞くつもりっすよ。基本的には。

魔術師

…………。

ヤブ

…っと、丁度いいところに

機を見計らったかのように、
注文していた酒が給仕によって運ばれてくる。

顔をほころばせる面々とは対照的に、
魔術師は苦い顔をしながら水の入ったグラスを受け取り、
ため息をつきながら視線を水面へおとした。

魔術師

(…『黒の書』の『忘却』が使いづらくなった途端にこれだもんな。
神ってヤツがいるんなら、人間をおちょくるのがよほど好きらしい。)

魔術師

(…………ん。)

伏せていた視線を上げると、
テーブルを囲む四人の視線が
魔術師に注がれていることに気が付く。

めいめい酒を手に取り、
発言を待っているようだった。

魔術師

(だが……、寄ってたかって虚仮コケにされるよりずっといいか。)

一つ、息を吸う。

いつしか横暴なPTパーティーに身を置いていたころに得た
不快な感情を思い出す前に、腹に落としてやる。

今 目の前にいるのは奴等じゃない。

自ら"魔術師"を名乗ろうと、
求められた役割だけでなく
振る舞いや考えまでの「個」に目を向ける物好き達だ。

魔術師

…………えー、

魔術師

それでは今夜は『蒼の黎明』結成と、ヤブの影討伐を記念して――

<蒼の黎明>
―――乾杯!