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- 10話 澱める風
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9話 それぞれの矜持(1/6)
<昼前 貪欲の小枝亭 一室>
ふぁ~、良く寝たぁ…
はよっす、魔術師さ―――
…あれ? 魔術師さんは?
魔術師さんなら出かけましたよ。
魔道具の買出しだそうです
!
…独り言のつもりだったのに、返事が来る。
しかもその相手は野郎の魔術師さんではなく、窓を開け放って新たな風部屋に取り込むミオラちゃん。
いくら酒をそこそこ決めたとはいえ、間違いを犯した覚えはないんすけど…
変な言い方して流れを作ろうとしてもだめですよ。
私はヤブさんに用があってきたんです!
俺に用? デートのお誘いっすか?
…………。
ミオラちゃんもいいリアクションするっすよねー
…ヤブさんはヒソゥで私を陥れようとした神経魔術師なんですよね。
なので、どのような手口で私を陥れたのか、説明を願いたいと思いまして。
えー、神経魔術師に直接タネを聞いちゃうんですか?
まーミオラちゃんなら特別にいいっすけど。
でもミオラちゃん、勇気あるっすねー。
魔術師さんもいないのに、前科のある神経魔術師のところに単身でくるなんて。
また術をかけられるかもしれないっすよ?
それについてはご心配なく。
きちんと対策をしてきていますから!
***
<同刻 クルムラド 裏通り>
(ミオラに仮のタリスマンを渡して出てきたが…アイツ、どや顔でヤブのところに行ったりしてないだろうな…。)
(まぁタリスマンを渡す前から、なぜか術が通らなかったし大丈夫か。
…というか、術が通らないワケをこっちが知りたいくらいなんだが―――)
<苛ついた様子のチンピラ>
おいガキ! 今日こそ この店を明けわたしてもらうぞ!
うるせー!
お前らなんかにぜってぇ父ちゃんの店はやらねーからな!
?
最初は喧嘩の類いかと聞き流していたが、
声の主の片方がずいぶんと
幼く聞こえて足を止める。
離れた所からそちらを見やると、
店の前に立つ赤髪の少年に向かって
男二人が金を取り立てているようだった。
つーかオレ、金は払ってるよな!?
なんでしつこく文句言いに来るんだよ?
<苛ついた様子のチンピラ>
はン、払ってるっつってもテメーの金じゃなくて親が遺した金だろ?
上手く店を回せてねぇなら、それも直に限界がくる
うぐ……
<にやついた笑みを浮かべるチンピラ>
つまり…この店はいずれ俺たちのモンになるってことさ。
それなら今手に入れても変わらねぇだろ? 遅かれ早かれってやつだ!
は…?!
なんだよそれ、おーぼーだろ!!
<苛ついた様子のチンピラ>
なんとでも言え!
元々借りてたものを返すだけだ、さっさと退きやが―――
<苛ついた様子のチンピラ>
であッ?!
うぉ!?
少年に向かって振り上げた男の右腕は、
勢いをそのままに、
自らのみぞおちへ吸い込まれる。
予想の外から もたらされた突然の痛みに
男は呆気なく膝をついた。
<にやついた笑みを浮かべていたチンピラ>
な、なんだこれ…!?
ガキ一人によってたかってみっともねぇな。
小遣い稼ぎなら他所でやれ
!!
<にやついた笑みを浮かべていたチンピラ>
な、なんだてめぇ!
部外者が口を挟むんじゃねぇ!!
そういうあんたらもただの雇われだろ、どうせ。
だが…、俺はこの店の熱心なファンなんでね。
これ以上ちょっかいだすなら、もっと痛い目見せてやることになるが
<にやついた笑みを浮かべていたチンピラ>
こんなヤツがいるなんて聞いてねぇ…つーか今は魔術師はザコって話じゃ……
クソッ、覚えてろよ!!
典型的な捨て台詞を吐きながら、
膝をつく男を抱えて去っていくのを
少年と並んで見送る。
やがて姿が見えなくなると、
その方向を見つめたままの少年を一瞥して
……
…っとまぁ、適当に口裏を合わせたし、これでしばらく寄って来ないだろ。
それじゃ、邪魔したな―――
スゲーなにーちゃん、めちゃくちゃ助かった!
こんな客がいるなんて、父ちゃんたちから聞いてなかったから知らなかったぜ!
いやだから適当に話を合わせただけだって言ってるだろ
こういう時に限ってえるふがいないんだもんなー…って、アイツに頼ってばっかりじゃだめだよな!
お礼したいし、いい時間だし、オレの店で飯食ってけよ!
客が来ないだけで味はいいんだぜ、まじで!!
人の話を聞けよ!!