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9話 それぞれの矜持(1/--)


<昼前 貪欲の小枝亭 一室>

ヤブ

ふぁ~、良く寝たぁ…
はよっす、魔術師さ―――

ヤブ

…あれ? 魔術師さんは?

ミオラ

魔術師さんなら出かけましたよ。
魔道具の買出しだそうです

ヤブ

ヤブ

…独り言のつもりだったのに、返事が来る。
しかもその相手は野郎の魔術師さんではなく、窓を開け放って新たな風部屋に取り込むミオラちゃん。 いくら酒をそこそこ決めたとはいえ、間違いを犯した覚えはないんすけど…

ミオラ

変な言い方して流れを作ろうとしてもだめですよ。
私はヤブさんに用があってきたんです!

ヤブ

俺に用? デートのお誘いっすか?

ミオラ

…………。

ヤブ

ミオラちゃんもいいリアクションするっすよねー

ミオラ

…ヤブさんはヒソゥで私を陥れようとした神経魔術師なんですよね。
なので、どのような手口で私を陥れたのか、説明を願いたいと思いまして。

ヤブ

えー、神経魔術師に直接タネを聞いちゃうんですか?
まーミオラちゃんなら特別にいいっすけど。

ヤブ

でもミオラちゃん、勇気あるっすねー。
魔術師さんもいないのに、前科のある神経魔術師のところに単身でくるなんて。 また術をかけられるかもしれないっすよ?

ミオラ

それについてはご心配なく。
きちんと対策をしてきていますから!

***

<同刻 クルムラド 裏通り>

魔術師

(ミオラに仮のタリスマンを渡して出てきたが…アイツ、どや顔でヤブのところに行ったりしてないだろうな…。)

魔術師

(まぁタリスマンを渡す前から、なぜか術が通らなかったし大丈夫か。
…というか、術が通らないワケをこっちが知りたいくらいなんだが―――)

<苛ついた様子のチンピラ>
おいガキ! 今日こそ この店を明けわたしてもらうぞ!

???

うるせー!
お前らなんかにぜってぇ父ちゃんの店はやらねーからな!

魔術師

最初は喧嘩の類いかと聞き流していたが、
声の主の片方がずいぶんと
幼く聞こえて足を止める。

離れた所からそちらを見やると、
店の前に立つ赤髪の少年に向かって
男二人が金を取り立てているようだった。

???

つーかオレ、金は払ってるよな!?
なんでしつこく文句言いに来るんだよ?

<苛ついた様子のチンピラ>
はン、払ってるっつってもテメーの金じゃなくて親が遺した金だろ?
上手く店を回せてねぇなら、それも直に限界がくる

???

うぐ……

<にやついた笑みを浮かべるチンピラ>
つまり…この店はいずれ俺たちのモンになるってことさ。
それなら今手に入れても変わらねぇだろ? 遅かれ早かれってやつだ!

???

は…?!
なんだよそれ、おーぼーだろ!!

<苛ついた様子のチンピラ>
なんとでも言え!
元々借りてたものを返すだけだ、さっさと退きやが―――

<苛ついた様子のチンピラ>
であッ?!

???

うぉ!?

少年に向かって振り上げた男の右腕は、
勢いをそのままに、
自らのみぞおちへ吸い込まれる。

予想の外から もたらされた突然の痛みに
男は呆気なく膝をついた。

<にやついた笑みを浮かべていたチンピラ>
な、なんだこれ…!?

魔術師

ガキ一人によってたかってみっともねぇな。
小遣い稼ぎなら他所でやれ

???

!!

<にやついた笑みを浮かべていたチンピラ>
な、なんだてめぇ!
部外者が口を挟むんじゃねぇ!!

魔術師

そういうあんたらもただの雇われだろ、どうせ。

魔術師

だが…、俺はこの店の熱心なファンなんでね。
これ以上ちょっかいだすなら、もっと痛い目見せてやることになるが

<にやついた笑みを浮かべていたチンピラ>
こんなヤツがいるなんて聞いてねぇ…つーか今は魔術師はザコって話じゃ……
クソッ、覚えてろよ!!

典型的な捨て台詞を吐きながら、
膝をつく男を抱えて去っていくのを
少年と並んで見送る。

やがて姿が見えなくなると、
その方向を見つめたままの少年を一瞥して

???

……

魔術師

…っとまぁ、適当に口裏を合わせたし、これでしばらく寄って来ないだろ。
それじゃ、邪魔したな―――

???

スゲーなにーちゃん、めちゃくちゃ助かった!
こんな客がいるなんて、父ちゃんたちから聞いてなかったから知らなかったぜ!

魔術師

いやだから適当に話を合わせただけだって言ってるだろ

???

こういう時に限ってえるふがいないんだもんなー…って、アイツに頼ってばっかりじゃだめだよな!

???

お礼したいし、いい時間だし、オレの店で飯食ってけよ!
客が来ないだけで味はいいんだぜ、まじで!!

魔術師

人の話を聞けよ!!