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5話 白き影(3/6)


<邸宅内 個室>

魔術師

(何事もなく夜になっちまったな。)

各々に与えられた個室の、
格調高いカウチに腰掛ける。

外套や手袋を外した格好で
魔術師は寛いでいた。

魔術師

(ゴースト。
俺の知る限りじゃ、この世に未練をもった死者…いわゆる地縛霊ってやつだが――)

ミオラ

魔術師さん、いますか!?

魔術師

? ミオラ?
ディムの見張りをしてたんじゃ

ミオラ

出たんです…その、ゴーストが!
それで、私、何も出来なくて

魔術師

なんだって?

動揺した様子のミオラの声に、
足早になって部屋の扉を開く。

そこには表情から余裕の消えた
ミオラが立っていた。

魔術師

ディムは居ないのか。

ミオラ

は、はい
ディム君は部屋に戻ってしまって

ミオラ

ディム君と廊下で会って、
ゴーストに追われてると言っていて、
そしたら半透明の、見たことのない化け物に襲われて――

魔術師

(顔色が悪い。
これは…マジのやつっぽいな。)

魔術師

わかった、とりあえず落ち着こうか。

護衛対象の少年の下に向かうにも、
話を聞かないことには始まらない。

魔術師は、脅威に遭遇した
ミオラの手をおもむろに取った。

魔術師

(冷た……。)

ミオラ

あ……。

手から微かな震えを感じながら、
目を閉じて魔術に集中する。

対象に荒く波打つ”魔力の波”へ
凪いだ水面を強く想像し、導いていく。

術を終えて目を開くと、
ミオラの顔に幾分か血色が戻っていた。

魔術師

今 どんな感じだ

ミオラ

魔術師さんの手、あったかいです

魔術師

…落ち着いたなら何より。

事は済んだと判断して
手を放そうとするも、離れない。

ミオラが魔術師の右手を握っていたからだった。

魔術師

おい、さっき落ち着いたって

ミオラ

私は言ってません!
というか放したらまたさっきの状態に戻る気がします!!
いや戻ります絶対!!

魔術師

わかった!
わかったから強く握るな痛ぇ!!

***

魔術師

…なるほどな。

ミオラから事の一部始終を聞き終え、
小さくこぼす。

魔術師

命の危険を感じたんなら、ロクな手合じゃなさそうだ。
無事で良かったな。

ミオラ

…嘘だと思わないんですか?
こんな現実味のない話……。

魔術師

あんたが嘘をつく理由が無ぇし、前にベヒモスみたいな獣を見たばかりだろ。

ミオラ

べひもす?

魔術師

あぁいや、なんでもない

ミオラ

…………。

魔術師

とにかく、そんな得体のしれないヤツがいるならヤブとも合流したほうがいいか。
俺がディムの部屋に行くから、ミオラはヤブを呼びに――

ミオラ

………………。

魔術師

…わかった、俺も行く。

ぎりぎりと手を締め付ける握力と、
無言の圧に屈して肩をすくめる。

カウチに座らせていたミオラを
立ち上がらせて、二人で
ヤブの居る個室へ向かうのだった。