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7話 壊れ、移ろう(6/6)
…………。
ヤブ、あんたちょっと動いてみて―――
イェレのぼったくり!
!?
ヤブが自身の影を黙って
眺めていたかと思えば、
それを地面ごと蹴り上げたり
踏みつけるような動作をし始めた。
サイコパス、無茶振り魔人!
鉄仮面!! 邪気眼病!!!
………………。
……何も起きない。
やったんっすね。マジで。
やったーーー!!!
はしゃぐ前にミオラを診ろバカ!
ハッ! すみません、俺としたことが 怪我した女子を失念するなんて
だ、大丈夫ですよこれくらい!
唾つけてれば治りますから!
もしかしてお金の心配してます?
ダイジョーブっすよ、当然タダなんで
やたらおどおどした様子のミオラに
ヤブはいつも通りの笑みを向けながら、
切り傷の入った右腕に向かけて
治癒術を施し始める。
(なんだか見た目で想像してたよりも、ぐじゅぐじゅな感覚が…!)
…悪ぃ、俺が初撃で仕留めてれば
! いえ、これくらいは名誉の負傷なので!
むしろ魔術師さんも、傷の具合が良くないんじゃ…。
あれは神経魔術で術を行使したからっすよね?
俺、てっきり属性魔術は別口でやってるかと思ってたんすけど…魔術師さんってドMなんすか?
うるせー、どう魔術を使おうが俺の勝手だろ。
そもそも魔術が使えない奴らが出てる状況なら、自分の魔力使った方が確実だろうが
あー、もしかして魔術が使えない理由って精霊魔術だからとか?
それ結構やばい話っすね
???
よし、こんなもんっすかね。
幸い傷が浅いんで、縫合はしなくて大丈夫かと。
!!
男二人の会話に首を傾げている間に、
ヤブの言葉で処置が終えられていたことに気が付く。
右上腕に適切な加減で巻かれた
包帯に目を丸くした。
あ、ありがとうございます!
こちらこそ。
強くてかわいいミオラちゃんの柔肌に触れられて役とk…恐悦至極っす。
オイ……
えーと……
痛だッ!
助かったからって調子乗ってんじゃないわよ!
騒動の種のクセに無傷で腹立つし、一発殴っといたら?
いやもう殴られたんすけど!?
でもまぁ…。
影が陽射しに出てまで魔術師を狙うのは想定外だったわ。
よく反応したわね。
あり。拾ってきてくれたんすか?
わざわざどうも。
何食わぬ顔で手渡された銀の針を
コートにしまい込む。
訝しむような視線を送りながら、
ストリィは腕組んだ。
…アンタ、聖水の事も知ってたし、自前で銀の武器なんて持ってるし…もしかして同業だったりする?
いや、これはあくまで吸血鬼に対する保険っすよ。
ちょっとした付き合いがあったもんで――
それが「イェレ」ってワケ?
えーッ!? もしかしてストリィさんも 彼の吸血鬼商人をご存じで?
さっき名前言ってたでしょうが!!
影もいなくなったんだし、戻ったらその辺も洗いざらい吐いてもらうわよ!!
行くぞと言わんばかりに踵を返し、
クルムラドに向けて歩き始める。
彼女に倣い、一行も後に続いていく。
やれやれ、一難去ってまた一難っすね。
おとなしく絞られますか―――
…………。
…………。
魔術師さん
ん。
今回はマジで助かりました。
魔術師さんに感謝の意を。
別に。
お互い降りかかった火の粉を払っただけだろ
ミオラちゃんの怪我、気に病まなくていいっすよ。
ちゃんと綺麗に治るはずなんで。
…………。
ミオラちゃーん!
影との渡り合い見事だったっすね!
ほんと強い子がパーティーにいて助かりました!
!? そんな、こちらこそ足止めしきれなかったところをカバーしていただいて……
フォローを手短に終え、
ミオラに駆けていくヤブの後姿を見送る。
そのやり取りを眺める魔術師の表情は
晴れないままだった。