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9話 それぞれの矜持(3/6)
<昼前 激熱の赤髭亭>
…………。
どーしたんだよ、魔術師のにーちゃん。
残りもガンガン食っていーぜ?
いや…、(他にも何か出ると踏んでたんだが…)
マジで肉オンリーなんだな
ライノは肉だけならおいしーから!
肉だけ食べれてラッキーだね!
なんかこう、野菜とか……
まぁ水あるからいいか
それだよそれ! 今まさに直面してる問題でさー。
まじゅー? ってやつのせいで、野菜が買いづらくなってんだよな。
(肉が平気なのは独自ルートでも持ってんのかね)
…魔獣が人里やルートを荒らしてんのか。
あぁ。デカブツの獣がクルムラド近くで暴れたせいで治安がサツバツしてる…って、叔父さんが言ってた。
盗賊は出るし、農村の畑の調子が悪くなるし、騎士団もケガ人ばっか出てるしで、とにかく散々だってさ
ふーん
だからさ、魔術師がばばーんと倒してきてくれよ!
そうすれば俺たちも野菜が買いやすくなって―――
それはライノからの「依頼」ってことでいいのか
へ?
さっきあんたを助けたのは、ただの俺の気まぐれだ。
見返りナシに進んで人を助けるほど、お人好ししてないんでね。
な…なんだよそれ!
飯が出なくなって困るのは冒険者も一緒だろ?
その時はその時で依頼が出されるだろうし、こっちも稼ぐなりで対応するだけだからな
せちがらいですなー
ぐぬぬ……。
…けど、要はほーしゅーがあればいいんだろ?!
うーん、そーだな…。
ライノはカウンター越しに腕を組み、
しばらく通路を往復していたが、
閃いたと言わんばかりに「あ!」と
小さくない声量をこぼして魔術師へ振り向いた。
じゃあ、オレん家の空き部屋を好きに使っていい!ってのはどうだ?!
タダの寝床があるのは冒険者には便利だろ?
え…。
そりゃ助かるが一回きりだろ
いや? 別に使いたいなら何回でも使えばいいし、
かさばるモノがあるんなら置いてっていいぜ。
定期的に来てくれればさっきの取り立てのケンセーになるし、
家ってナマモノらしいからなー。
えーっ! 家って腐るんだ?
知らなかった~
あんたよく…
?
…いや、なんでもない。
で、受けんの? 受けねーの?
それは詳細次第だな
よっしゃ乗り気じゃん!
えるふ、出動準備しておけよ!
らじゃー!!
だから話を聞いてからって…ったく
…ん。
二階にばたばたと引っ込んでいったえるふの姿に嘆息していると、
呼石が淡く明滅していることに気が付く。
手に取ってからすぐに、
柔和な音声が肉声と遜色なく聞こえてきた。
ミオラの声だ。
<ミオラ>
あの、これもう声聞こえてるんでしょうか? えーっと…
魔術師さん、今大丈夫ですか?
聞こえてるし平気だぞ
<ミオラ>
!! すごい、ほんとに魔術師さんの声…!
…あ、はい! それならよかったです!
ちょっと呼石を使ってみたかったので…。
<ミオラ>
ヤブさんも起きたので、何か依頼がないかギルドへ見に行こうと思ってて。
魔術師さんの方で、依頼が入れ違いにならないようにと
それなら丁度、ミオラの予想した展開になってるな。
賊や魔獣を相手する依頼が出そうなところだ
<ミオラ>
! そうだったんですね。
じゃあこちらから合流します。今どちらに?
えーと、確か―――
クルムラド裏通り、『激熱の赤髭亭』だぜ!
これからご贔屓にしてくれよな!