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9話 それぞれの矜持(5/--)
<激熱の赤髭亭 店先>
いやー、魔術師さんもなかなかやり手っすね~
? 何がだよ
ライノの言いくるm…依頼説明っすよ。
あの条件なら適当にその辺ぶらついて帰っても、無条件で個室の一角を頂けるじゃないっすか
ちょっ…、何言ってるんですか!?
ちゃんと農村に行って最善を尽くすんですよ!
そうですよね、魔術師さん!?
まぁ、当然やれることはやるが…ダメな時はダメだからな。
そん時の保険を打っただけ―――
てい!
うげッ!?
!?
えっ、えるふさん!?
ライノのお願い、すっぽかすのー?
えるふおこるよ!
どこからともなく ひらりと姿を現したえるふが、
ヤブの後方から両腕を使って首を絞めている。
し…っ、死ぬしぬ!!
間延びした喋り方は相変わらずだが、
エルフの腕をべしべし叩く
ヤブの顔色を見る限りやり手のようだ。
意識が落ちた男一人を背負っていくのは面倒である。
どうどうとえるふに向かって
手をかざしながら説得を試みる。
誤解だえるふ、すっぽかさねぇから!
それを見張るためにも あんたがついてくるんだろ?
大丈夫ですよ、えるふさん!
もしものときは私がヤブさんを捕まえるので!
ヤブさんを締め落とすのは、実際に妙な動きしてからでお願いできますか?!
ん~~……。
そこまでいうならー…、わかった!
ぷはぁッ!
それにしても…見事な身のこなしですね、えるふさん!
人の動きは勉強になることが多いので…、えるふさんとご一緒できて嬉しいです!
おぉ~? ボクほめられてる?
ぜんえーはまかせてくれていいよ~!
女性陣の切り替え早っ……ってか、とんだじゃじゃ馬っすねこのコ!?
口は禍の元なだけだろ……
***
<??? とある洞窟>
<軽装の男>
助かります、騎士様。
村民だけではここに来るのも難しくて…
<鎧に身を包む男>
構わないさ。これが任務だからな。
<軽装の男>
ご厚意痛み入ります。
この空間に、水源の泉があるはずなので……
<軽装の男>
…………!!
青年は手に持った灯石の光源を頼りに、
目的の泉まで歩みを進める。
ところが、滾々と水を貼っていた窪みには、
滑らかな岩肌が露出しているだけになっていた。
<軽装の男>
そんな……、泉が枯れてる!?
だから畑に水が来なくなったのか…。
<軽装の男>
騎士様、先にこの事を村の皆に伝えてもらってよろしいですか?
私は少しここを調べ―――
<軽装の男>
―――あれ?
背後にいる騎士へ言葉を伝えるべく、後ろを振り向く。
しかし、そこに騎士の姿はなかった。
同様に灯石を持って調査にきていたはずの人影はなく、
闇が眼前に佇んでいる……。
<軽装の男>
騎士様…、いらっしゃらないのですか…!?
<軽装の男>
(もしや置いて行かれた?
それなら足音や板金の音が耳に届くはず……。
だが、何の物音もしなかった……)
考えを巡らせている間にも、騎士の応えはないままだ。
正体のわからない脅威が身近に迫っているかもしれない。
いや、迫っているのだろう。
危機を自覚する。
一気に膨れ上がった恐怖が今にも張り裂けそうになる。
一刻も早く、ここから離れなくては―――
<軽装の男>
(頼む、見逃してくれ…!!)
灯石を握り締め、元来た方角に向かって地面を蹴る。
なぜ自分ではなく、騎士が先に姿を消したのか?
そうした考察に気を割く余裕はなかった。
ただひたすら祈りながら、
無事に元の日常に戻る己の姿を
薄っすらと脳裏に浮かべながら、
一歩踏み出すごとになけなしの力を込めていく―――
だが、調査に向かった青年二名が、
村に戻ることはなかった。