目次
神経魔術師バナー
飾り線

6話 影の支配者(6/6)


魔術師

…………。

瞼の裏に光の塊をぶつけられた感覚がして、
たまらず目を開ける。

映った景色が天井ではないあたり、
あのまま意識を失っていたのだろう。

部屋は窓から得た
日光によって明るく照らされ、
日中であることを魔術師に知らせていた。

魔術師

………?

身じろごうとすると、どうにも動きづらい。
血を失ったことによる怠さとも違う。

両脇に、何か在る。

ミオラ

…………。

ヤブ

…………。

魔術師

(コイツら…。)

寝息を立てている彼らを認識することで、
自分が丁度 両者に挟まれる形で
身を寄せられている状態だと理解した。

包まるようにかけられた掛け布で
直接視認はできないが、
特に不快感がないあたり
傷口は適切に処置されたのだろうか。

魔術師

(床もなんとも無さそうのが不気味だが…。
それはそれで、部屋を汚してないなら不幸中の幸い、か。)

魔術師

(…にしても、これじゃ下手に動けないな。
起きるまで待つか…。)

魔術師

……ん。

下手に動けないと考えた矢先だったが、
傷口の具合を見るべく
無意識に利き手を動かそうとしていた。

だが、その右手が動かない。

ミオラ

というのも、ミオラがその手を
包み込むように握っているからだった。

魔術師

…………。

魔術師

(なんでミオラは、俺に拘るんだろうな)

ミオラは駆け出しの冒険者とはいえ、
腕は確かだ。

性格的にも、加入するパーティーに
困ることもないだろう。

少なくとも、眼の前で
訳の分からない脅威によって
命の危機に晒された人間に
付き合う理由が
魔術師には見当たらなかった。

魔術師

(森で助けたからか?
…だったら、雛の刷り込みみたいなもんだよな)

もしくは気を失っている間に、
この場を立ち去れない"何か"を
ヤブから受けているのかもしれない。

どちらにせよ―――

魔術師

(全部起きてから、だな…)

泥のように沈んだ鈍い思考から、
未だに体力の不足を感じる。
その重みにつられて 魔術師は再び瞼を閉じた。

右手から伝わる仄かな熱は、
陽だまりのように温かかった。