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3話 異端の獣(4/5)


<クルムラド 気弱な赤髭亭>

魔術師

(ヤブの奴、どういうつもりだ?
ミオラから手を引いたってのは嘘だったのか―――)

魔術師

(って、いや…。
どっちも他人だし、もう俺には関係ねーだろ。)

<甲高い女の声>
それでさー、その化け物って逃げちゃったんでしょ?

魔術師

酒場のざわめきの中から、
遭遇したばかりの話題が魔術師の耳に届いた。

<野太い男の声>
えっ、そうなのか?

<甲高い女の声>
そー。なんか見張りの魔術師がもたついて、魔術を撃たなかったらしくてさ。
野放しじゃ危ないし、騎士たちが追ってるみたいだけど。

<野太い男の声>
んじゃ、そのうちこっちに討伐依頼が出るかもしれないな。
いざってときに魔術が撃てない兵士と違って、俺たちは土壇場勝負がウリだからな!

<甲高い女の声>
あはっ、言えてるー!

魔術師

(既に 噂は広がってる、か。
見てない奴は呑気なもんだな。)

魔術師

…………。

魔術師

(思えばあの化け物…、どこかで見たことある気がするような―――)

魔術師

(…いや、気のせいか。)

 

線

 

<同刻:クルムラド 貪欲の小枝亭>

ヤブ

だから、あーいう手合は一回引くのが正解なんすよ。
一緒にいる間は、手元にあるって錯覚して余裕かましちゃうんで。

俺が誘わなかったら、あのままミオラちゃん食い下がってたでしょ?

ミオラ

なるほど…!
言わんとすることは なんとなくわかります!
*スープを木の椀から飲み、遠い目で器を置いて*

…けど、魔術師さんでも そう思うものなんですね…。

ヤブ

魔術師さんがっていうか、男って単純なんで。

ミオラ

…………。

ヤブ

そういや聞き損ねてたっすけど、ミオラちゃんはなんでクルムラドに?
知見を広めに来た、とか?

ミオラ

…はい。概ねそんなところです。
故郷に居るだけでは、得られる見識も、強さも…、限界があるとわかったので。

ヤブ

へー。向上心があって立派っすね。
なら尚の事、りよ―――お人好しそうな魔術師さんを捕まえないとっすね!

ミオラ

(りよ?)
は、はい!

<ほがらかな給仕>
ミートパイ3つでお待ちの方ー?

ヤブ

(あれを3つって。
ずいぶん景気のいいパーティーがいるようで)

ミオラ

あっ、それ私です!

ヤブ

えっ

真顔で固まるヤブをよそに、
テーブルに置かれたミートパイに
ミオラは目を輝かせる。

大皿に3枚 豪気に重ねられた
ミートパイを切り分けながら、
ピース状にしたパイを皿に取り分けた。

ミオラ

もちろんヤブさんも食べて大丈夫ですよ。
元々ヤブさんの奢りなんですし!

ヤブ

…………。

ヤブ

(…これはアレを抜きに、魔術師さんには早急にパーティーに入ってもらわないとっすね…。)