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3話 異端の獣(2/5)


<クルムラド門前>

ヤブ

だーかーら、ヤバいデカい獣がコッチに来てるんすよ。
さっき街に突っ込んでった騎士たち見たでしょ!

おい、なんだあれ?!

ヤブ

!!

城壁上方であがった声に反応して
門より外の平原を見やると、
緩やかな坂を駆け上がって
こちらに向かうミオラが目に入る。

それから彼女に手を引かれて走る魔術師、
そして獣の順に姿が現れた―――

ミオラ

魔術師さん、もう少しですから!

魔術師

(クソッ! このデカ犬、ナリの癖に加速してから速すぎんだろ!
直線走るとか正気じゃねぇ―――)

魔術師

だァッ!!

<四ツ足の獣>
グガッ!?

二人が門の中に飛び込んだと同時に、
格子がガラガラと音を立てながら降下する。

そこに丁度突っ込んで来た獣がぶつかり、
門が重く軋む音が辺りに響いた。

<通りすがりの青年>
なんだコイツ、見たことねぇ犬…いや、牛か?!

<腹の出た男>
見張りの連中は何してるんだ!
さっさと攻撃しろ!!

<四ツ足の獣>
――――。

魔術師

――――。

未知の獣の襲来。
突然の出来事に背後で人々が騒然とする中、
不意に視線が重なった。

煌々と輝く黄金の瞳、鋭い瞳孔が、
喰らいつかんばかりに
魔術師の双眸を捉えている。

魔術師

(…コイツに効くかわからねぇが)

予感に呼ばれ、
暴れる心臓と荒い呼吸とは裏腹に、
心は静かに獣を見据える。

それは、神経魔術師の領域だった。

魔術師

返れ。
お前の場所は此処じゃない
――――

<四ツ足の獣>
…………。

ミオラ

あっ…?

格子に牙を立てていた獣が、
徐々に落ち着いていく。

そのまま旋回して向けられた背には、
城壁の見張りたちから放たれたであろう
矢が何本か刺さっていた。

血痕を点々と残し、
何事もなかったかのように
平原へ走り去っていった――――

魔術師

…っは、

ミオラ

危なかった……。

ざわめく周囲をよそに、
魔術師は腰を下ろして深くため息をつく。

それにつられてミオラもへたりこんだ。

ミオラ

ほんとに…、先に駆け出した魔術師さんが途中で失速した時はどうなるかと……。

魔術師

体力無くて悪かったな!!

ヤブ

いやー、よく無事でしたねおたくら。

ミオラ

…、ヤブさん……。

ヤブ

*ミオラの視線にも、悪びれずに肩をすくめて*
そんな目で見られると寂しいなー。
俺が先に退いてなかったら、手際よく門を閉められなかったと思うっすよ?

魔術師

お前よりも先行してた騎士達が居ただろ。

<風格のある騎士>
そう言ってやるな、あちらは馬を鎮めるのに手間取っていたのだ。

魔術師

声の主に振り向くと、
鎧をまとったフルフェイスの騎士の姿があった。

魔術師たちに向かって
きびきびと歩み寄り、敬礼した。

<風格のある騎士>
部下が助けられたようだ。
貴公等の機転に感謝する。

ミオラ

あっ…。いえ、こちらこそ!
門を閉めてもらえなかったら、私達も危ないところでしたから!

魔術師

お構いなく…

<風格のある騎士>
そ、そうか。
焦らずに身体を休めていくといい。
では、私はこれで失礼する。

騎士は手短に謝意を伝えると、
疲労した魔術師に遠慮した様子で
その場を後にした。

ヤブ

気ぃ遣われちゃったっすね。
俺が診たほうがいいっすか?

魔術師

いらねー。
ミオラが回復早すぎるだけだろ……。